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認知症による徘徊への対応法

更新日:2021/12/09

記事監修

高知大学 医学部 神経精神科学教室 教授
數井 裕光 先生

一言で「徘徊」といってもその内容や理由は人によって、また場合によってさまざまです。以下に主な徘徊の理由を挙げます。

もの忘れによる道迷いの結果の徘徊
あまりよく知らない場所で道に迷ってしまうために、帰ってこられず歩きまわるケースです。アルツハイマー型認知症の方でよく認められます。健康な人であれば、1回で覚えられる道順も、アルツハイマー型認知症の方では覚えられません。また元の場所に戻ることもできません。
そのまま歩き続け、行方不明になった場所から遠い場所で保護されるようなことも起こります。
視空間認知障害による道迷いの結果の徘徊
私たちは目で見た情報を脳の中で分析して方向、距離、位置などを把握します。このようなことができなくなった状態を視空間認知障害と呼びます。
アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症の方は、視空間認知障害が起こりやすく、このために道に迷います。よく知った家の近所で迷う、昔から住んでいる家のなかで迷う、トイレの場所がわからないなどの場合は、これによる可能性が高いです。
常同的周遊(周徊)
前頭側頭型認知症の方は、同じ行動をし続けたいという強い衝動を持ちます。その一つの形として、ご本人が決めた特定のルートを毎日散歩するという行動が認められることがあります。この行動を止めることはなかなか困難ですが、アルツハイマー型認知症の方のように道に迷うことは比較的少ないです。しかしルートの途中で、欲しい物があるとお金を払わずに盗ってくることがあり、これが問題となることがあります。
差し迫った必要を感じてある目的地に向かって歩く徘徊
「ここは私の家ではないから、家に帰らなくては」「子供が学校から帰ってくるので間に合うようご飯を作らなくては」「早く会社に行かなくては」など、その方なりの強い理由があって歩いていくケースです。
見当識の障害を伴うことも多いです。無理に外出を止めようとすると、興奮が強くなることがあります。
ご本人も目的がよくわからずソワソワ歩く徘徊
何か探し物や用事を思い立ったが、歩いているうちに、何をしようとしていたのか、そもそもの目的すら忘れてしまって、ただソワソワ歩き続けるケースです。目的は忘れていますが、落ち着かない気分だけは残っていて、じっとしていられない様子です。
せん妄による徘徊
主に夕方から夜間にかけて、幻覚を見たり強い不安に襲われたりして家を飛び出してしまうケースです。
ご本人は恐怖感でいっぱいなので、制止しようとするとさらに興奮し、暴言や暴力に及ぶことがあります。
今いる場所が退屈なため出歩く徘徊
今いる場所に面白いことがなかったり、気まずかったりするために、外出するケースです。

対応法

直接止めることは逆効果

動き回ったり外へ出たがったりしている方を直接止めようとしても逆効果です。

安全のための対策

どのタイプの徘徊も交通事故の危険、帰ってこられなくなる危険、転倒する危険、また夏場は脱水、冬場は凍死の危険までありますので、まずはその対策をとっておきましょう。

  • 服装は明るめの色で、車から発見しやすいようにしておきましょう。コート、ジャケット、パーカーの類は特に明るい色を選んでおくとよいと思います。
  • 夜間、車のライトで光るように、服や靴に反射素材をとりつけておくこともよいでしょう。
  • 服の裏や襟裏、靴の側面に連絡先を書いておいたり、財布、定期入れに連絡先を書いたカードを入れておくことも大切です。
  • 小型のGPSつき器具や位置情報がわかる器具なども販売されています。常時身につけてもらう、服や必ず携帯するカバンに入れる、縫いつけるなどして利用すると安心です。
  • 玄関などに開閉すると音の鳴る器具やセンサーをつけておくと、知らない間の外出が防げます。
  • 「徘徊SOSネットワーク」など、徘徊する方を発見するための取り組みを自治体で行っているところもあります。地域包括支援センターに問い合わせてみて、該当していれば利用を申し込みましょう。
  • 管轄の交番や警察署に顔写真と住所氏名を届け出ておくと、保護された時の連絡が速やかです。
  • ご近所の方やよく利用する商店などに事情を話しておくと、見かけた時にご本人に声をかけてもらったり、ご家族に連絡してもらったりできるでしょう。
  • 転倒しやすい方には、外出時に帽子をかぶってもらう、また靴はサンダルなどではなく、しっかりしたものを履いてもらうことが大切です。
  • 冬場や北国では、とにかく玄関口にコートを置いておいて、何はさておいても出ていくご本人に着てもらってください。

よく話を聞いて、切迫した気持ちに共感する

4.の差し迫った必要を感じて歩き出されるケースでは、ご本人は居ても立ってもいられない気持ちで飛び出そうとします。否定するとムキになるし、暴力や暴言まで引き出しかねません。

「違う」とは言わず、また「おかしなことを」と笑ったりもせず、耳を傾けて、ご本人がどんな気持ちでいるのか、どこへ行こうとしているのかを聞いてください。
そして、「それは大変ですね」「心配ですね」と、まず切迫したご本人の気持ちに共感してあげることが大切です。

そのうえで、「その服では外へ出られませんから、上に着る物を探しましょう」とか、「食事を作るのでしたらお米や野菜を用意しましょう。それともここで作っていきますか?」「会社に行くのに手ぶらではいけません。カバンを用意しますから、もっていく物を一緒に探してください」というように声かけし、外出しないで済む用事に関心を向けてもらいましょう。
「子供さんは今日はクラブで遅いです」「今日は日曜日で会社は休みです」と言って、納得してもらえることもあります。それでも出て行かれる場合は、仕方ありません。しばらく徘徊につきあってあげてください。

それから、「少し疲れました。お茶でも飲みましょう」とか、「夜になってきましたから、今日はここで泊りましょう」、または偶然会ったふりをして「こんなところでお会いするなんて。ちょっと寄って行きませんか?」と帰宅を促します。
玄関に鍵をかけるとドアを壊す方もいらっしゃいますが、「さわるな、故障中」と書いて貼りつけておくと、出て行かないケースもあります。

優しく声をかける

5.の、急ぐ風ではないけれども落ち着かずにソウソワしておられる場合は、「どうしたのですか?」とまず優しく声をかけてみてください。
それからトイレに誘導してみます。それですっきりされればよいですし、違うようでしたらお茶を勧めたり(脱水による体の不調かもしれません)、いつもかけている眼鏡はあるか、杖はもっているかなど、探し物がないかを観察してください。
探し物がはっきりしている場合は、一緒に探してあげればよいですが、よくわからない時は、しばらく雑談(「今日の晩ご飯は○○にしようと思うんですけど、それでいいですか?」など)をして、落ち着くようにしてあげてください。

6.のせん妄による場合も、優しい声かけが必要です。 ご本人は意識はあるものの半分寝ボケたような状態になっています。そばについているから安心するようにと声かけしましょう。また、今はいつで、ここはどこかわからずに不安になっている場合には、そのことを教えて、安心してもらいましょう。

自然な外歩きはよいことです

7.のように家のなかが退屈だったり、気まずかったりする場合に外へ出て行くことは健康な人でも行う自然な行動です。
差し支えなければ、安全に気を配りながら外出させてあげてください。ご本人が季節に応じた服を選ぶことができなければ、身だしなみに気をつけてあげましょう。

今住んでいる場所が快い安心できる場所になるように

徘徊の多くは、今のお住まいが快く安心できる場所になることで、和らいできます。叱ったり馬鹿にしたりせず、ご本人の不安や焦燥感が軽くなるように、穏やかにその方なりの世界を受けとめてあげてください。

前頭側頭型認知症の方の常同的周遊(周徊)に対して

この症状を止めるのは難しい場合が多いです。まずは本人が周遊するルートに危険な物や危険な場所がないかどうかを確認しましょう。ルートの途中でお金を払わずに何かを盗ってきてしまう可能性がある場合には、そのお店の人にご本人の病気のことを説明し、あとでお金を払いに行きますので、連絡してくださいというようにお願いしておきましょう。
どれくらいの時間をかけて周遊するかはおおむね決まっていることが多いです。もしも周遊の時間が長くなってきた場合は、変化が起こっている可能性があります。その時には再度患者さんの周遊につきあって、変化がないかを確認してください。

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