家族がアルツハイマー病による軽度認知障害
(MCI)かも?どうする?

監修 東京大学大学院医学系研究科神経内科学
 講師 岩田 淳

家族にアルツハイマー病によるMCIと思われる症状が見られたら、不安になってすぐに病院に連れて行きたくなるかもしれません。しかし、不用意に受診を促すことは本人を傷つけるだけでなく今後の治療に影響する可能性もあります。まずはどのように対応すればよいのか、順を追って解説します。

家族のアルツハイマー病によるMCIを疑ったときに注意したいこと

最近はテレビやインターネットでもさかんに認知症が取り上げられているため、少しの物忘れでも「もしや認知症では?」と心配になってしまう人もいるようです。しかし、物忘れが多いからとすぐに認知症と決めつけてしまうのは早計です。

知っておきたい、アルツハイマー型認知症、アルツハイマー病によるMCI、老化現象の違い

高齢者の物忘れの原因としては「アルツハイマー型認知症」「アルツハイマー病によるMCI」「老化」の3つの可能性が考えられます。
「老化」は加齢による自然現象です。人間の記憶力は一般的に、60歳頃を境に徐々に低下していきます。そのため、「とっさに人やものの名前が思い出せない」「朝食の献立が思い出せない」などの老化による物忘れは誰にでも起こります。一方の認知症やMCIは脳の病気によるもので、「既知のはずの人やものを知らない」「朝食を食べたという体験そのものを覚えていない」など、老化による物忘れとは根本的に物忘れの性質が異なります。家族の物忘れが認知症によるものか老化現象なのか、最終的には医師の判断を仰ぐべきですが、ご家族もそれぞれの特徴を理解して冷静に分析することが大切です。

アルツハイマー型認知症の特徴
  • 体験したことそのものを忘れる(食事したことを覚えていないなど)
  • 記憶力だけでなく判断力や計算力も低下する
  • 自分の物忘れについて理解できていない
  • 認知力の低下から日常に支障をきたす
アルツハイマー病によるMCIの特徴
  • 認知症の前段階
  • ほかの同年代と比較して物忘れが多いが、その自覚は(時々ではなく)常にある
  • 体験したことは憶えているが、詳細の内容をよく(すぐに)忘れる
  • 日常生活では困ることはあるが、独立して生活することは可能
老化による物忘れの特徴
  • 体験の一部を時々忘れる(食事をしたことは覚えているが何を食べたかを思い出せないなど)
  • 物忘れを自覚している
  • ヒントがあれば思い出せる
  • 日常生活に支障をきたすほどではない

直接的な問いは本人の自尊心を傷つける

アルツハイマー型認知症と老化の違いを理解したうえでやはりおかしいと感じた場合、早めに診察を勧めるのが賢明です。しかし、本人に直接「認知症やMCIでは?」「認知症のテストを受けてみたら?」と伝えることは、本人の自尊心を傷つけてしまう可能性があります。また、もし診察を受けて問題なかった場合、「私は正常なのに疑われた」という疑念が今後の関係に悪影響をきたすことも考えられます。

本人を傷つけず確認するには

アルツハイマー病によるMCIを疑ったときは、まず本人に気づかれないよう慎重にチェックしてみましょう。

会話の中でそれとなくチェックする

ふとしたときに、「明日の病院の予約って何時って言ってた?」「こないだの事件ってどこで起きたんだっけ?」と聞いてみるなど、日常生活の会話の中で記憶やその他の認知機能の確認を行うことで、本人にアルツハイマー病によるMCIを疑っていると気づかせることなく確認することができます。一度にいくつも質問するのでなく、例えば3日程度の日常会話の中で間隔を空けて聞くようにしましょう。

日常の様子もチェックする

アルツハイマー病によるMCIは、最近起きた出来事の細かな情報についての記憶があいまいになってしまいます。そのため、会話の中で最近起こったニュースに関する内容があいまいだったり、冠婚葬祭のような最近起こった特別な出来事での印象深い出来事を憶えていないといったことがよく認められます。このようなことが見られたときはアルツハイマー病によるMCIの可能性が高いです。

アルツハイマー病によるMCIの可能性が高い!本人を傷つけず病院に連れていくには

本人が認めない状態で病院に連れていくのはなかなか難しいことです。しかし、放置すればどんどん進行してしまう可能性もあります。本人を傷つけずに受診させるにはどのような方法をとるべきなのでしょうか。

病院に行く理由をつくる

体調不良があるわけでもないのに「病院に行きましょう」と言っても、本人は不審に思うでしょう。しかし近年、認知症疾患医療センターという「認知症対応が可能な医療機関」が充実してきており、そこでは「将来に向けた予防の相談」なども受けてくれます。クリニックのような小規模の医療機関でも「もの忘れ外来」といった専門外来を設けている施設も増えてきており、気軽に来院できる体制が整ってきています。そこで「現在は心配ないけど、将来ずっと健康でいてほしいから脳によい習慣をこの機会に一緒に学びに行こうよ」など、本人に配慮しながら「将来のために行く」という理由をつくることでスムーズに進む場合があります。それでも納得しない場合は、柔らかい言い方で今の本人の状況を説明することで受診を受け入れてくれることもあります。

病院に事前に連絡しておく

高齢者の中には病院に行くことに不安や恐怖を感じる人もいます。病院に着いてから「やっぱり帰りたい」となることも十分に考えられます。できるだけスムーズに診察が受けられるよう、事前に病院には連絡しておき、協力を仰ぎましょう。

決して強引には連れて行かないこと

どんな方法をとっても病院に行きたがらない場合もあるでしょう。そのようなときは、いったんその日の受診はあきらめ、別日にすることも大切な判断です。強引に連れていくことで本人が家族や医療機関に不信感を抱くと、今後の治療に影響を及ぼしかねません。強引に連れて行かないこと、強い言葉で責めないことはMCIの患者への接し方としてとても大切です。また、MCI段階では記憶障害の自覚があるので、ご自身のみで来院されることもできますが、診察時に日常生活のことが伝えられないと、医師や医療従事者は判断しかねるので、自分から受診する場合でもできるだけ日頃から一緒に生活をしている人と一緒に来院することをおすすめします。

アルツハイマー病によるMCIと診断されたら本人へのケアを

認知症の人は自分が病気である意識がない、と思われがちですが、MCIの方の場合は自分の状態を自覚している場合も多いです。変化に一番不安を感じているのは誰よりも本人なのです。そんな中で、MCIと診断されれば、本人は激しく落ち込んでしまうかもしれません。
しかし、MCIは適切な予防習慣を心がけることで改善することもあります。前向きに予防対策に取り組めるよう、家族や周囲が協力し、支えとなることが大切です。

「認知症ねっと」との共同掲載

  • 認知症の一歩手前 軽度認知障害は早期発見が大切 軽度認知障害(MCI)を知る
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