エーザイ

デイサービス「DAYS BLG!」理事長の声

仕事をすることが目的ではなく、
仲間と一緒に活動することに価値があります。

新しいデイサービスとして、国内はもとより海外からの見学者も多い『DAYS BLG!』(以下、BLG!)。対価を得られる労働や地域のボランティア活動など“働くこと”を通して、仲間とともに楽しい時間を過ごす、社会とのつながりをつくる、保つためのデイサービスです。運営元の『NPO町田市つながりの開(かい)』の前田隆行理事長にBLG!開設の背景、一般のデイサービスとの違い、今後の展開などを聞きました。

取材:2020年2月14日 エーザイ小石川ナレッジセンター(東京)

まずBLG!を立ち上げた経緯を教えてください。

BLG!について語る NPO町田市つながりの開 理事長 前田隆行さん

私が以前、社会福祉法人のデイサービスの管理者をしていた時、50代後半の男性が見学に来られました。その人は「働きたい」という思いが強かったので、法人が賃貸していた古民家の改修を一緒に始めたところ、「こういうことがしたかった」と喜んでもらえたんです。

その後、一緒に働くデイサービスの人が増え、古民家の改修は終了。次の仕事をということで、デイサービスが焼き芋をするために準備しておいた薪を「半分に切りましょう」と本人たちに提案しました。そうしたら「このままでいいんじゃねえか」と。おっしゃる通り。無理矢理つくった仕事です。

それからは“本物の仕事”を探しました。法人内では限界があるので地域に目を向け、保育園に声をかけたら、用務の仕事が受注できました。プール掃除をしたり、砂場の固まった砂をほぐして消毒したり──。細々した作業ですが、保育園ではなかなか手が回らず、「ぜひお願いします」ということでした。“本物の仕事”だったんです。本人たちからも「こういうことを求めていたんだよ」という声が聞かれ、ああ良かったと思ったのも束の間、今度は「対価がほしい」と言われました。わずかでも対価を得ることで、自分の仕事が評価されたという達成感を持ちたいと。当たり前のことです。

でも当時は、介護保険サービスの利用中に仕事をして対価を得ることは想定されていませんでした。そこで本人たちと一緒に厚生労働省に何度も出向き、「なぜダメなのか」と直談判です。5年間交渉を重ね、ようやく2011年4月、有償ボランティアとして謝礼の受け取りを認める通知が出ました。私は自分自身でこの通知を実行するため、2012年6月に『NPO町田市つながりの開』を立ち上げ、2カ月後にBLG!を開設したんです。

「働きたい」「求められる仕事がしたい」「対価がほしい」という本人の思いに応えてきたわけですね。

仕事があればいいというものでもないんですよ。BLG!がそうしているように、ある程度の選択肢が用意され、その中から本人が選べなければダメだと思うんです。「今日は外に出る仕事はちょっとなあ」という人に、「これしかないのでやってください」では、本人たちに“やらされている感”が生まれてしまいます。

よく言われるような、「本人に役割を“与える”」という考え方とも違うようですね。

役割を与えるという視点だと、“ケアする側”と“ケアされる側”がはっきりと線引きされてしまいます。BLG!は「役割は後から本人に見つけてもらう」というスタンスです。最初はいろいろな活動に参加してもらい、自分に合うものを見つけてもらう。その仕事を通して、「自分は役に立ってる」と思えるような仕組みをつくっていきます。

仕組みとは何かというと、はたから見て本人が希望する仕事が難しくなってきた時、その仕事を奪うのではなく、どうしたら続けられるだろうと考えます。たとえば洗車が難しいのは、拭く場所を認識しづらくなったのか、それとも体の動きが悪くなって車体の下の方を拭きにくくなったのか──。作業が難しくなったポイントを洗い出し、そこは他のメンバーにサポートしてもらうなり、代わってもらうなりして、仲間で一つの仕事を成し遂げる。仲間と一緒なら、自分もまだ役に立てるんだという実感を持ってもらう。そういう仕組みがあるから、要介護度5の人も本人の希望がある時は洗車に参加してもらっています。

メンバーさんの働くモチベーションはどこから来るのでしょう。

たとえば誰も洗車を希望しない日もあるんです。そういう時には「誰もいないなら俺が行くか」と言う人が現れます。すると「なんだ、お前行くのか。じゃあ俺もやるか」と別の一人が声を上げ、「俺も」「俺も」とあっという間に5~6人のグループができてしまう。「仲間一人に任せるのは忍びない」という、至って自然な気持ちの動きが生まれるんですね。

本人たちはお金を稼ぐことはあまり重要視していません。それよりも仲間と一緒に活動すること、仲間と過ごす時間に価値があるんです。共に働くことで、仲間意識はさらに強くなります。

「仲間意識」というのがBLG!の重要なキーワードのようですね。

一般的なデイサービスだと、本人たちの会話の相手はほぼスタッフです。でもBLG!では本人同士が普通に会話をしています。「母ちゃんからこんなこと言われてよ」とか「こんな失敗をしたんだ。でもこうして助けてもらったんだよな」というように。ここでは弱い部分をみんなで共有し合い、助け合う。心を開いて素の自分でいられる。そうした空気感が仲間意識の背景にあるんだと思います。

メンバーの方々は口々にBLG!に来ることが「楽しい」と話していました。

おそらく認知症と診断されてから、楽しいという気持ち、楽しいと感じる時間を失っていたのでしょう。仕事一辺倒できた人が、自信を失い、つながりがあった人たちとの縁も切れてしまう。「年賀状が届かなくなる」と言うんですよ。そうした失った気持ち、失った時間がBLG!に来ることで回復していく。その過程で仲間もできる。どんな活動をしたかは忘れてしまっても、「仲間と活動することが楽しい」という気持ちは毎回上書きされているのではないでしょうか。

現在、全国にBLG!を100カ所つくろうという活動を進めていますね。

新潟に住む認知症の人から電話をいただいたことがあるんです。「そこに通いたい。新幹線代は気にしなくていい」と。でもそれはどうなんだろう。暮らしている地域にBLG!のような場がないことが問題なんじゃないかと思いました。静岡などからも来たいという連絡がありましたし、このような場を求める人は全国にたくさんいます。その人たちの思いをカタチにするために、全国に100カ所の拠点を設ける動きを進めているところです。それは、事業所の拠点ということもありますが、学び合いを共有していくプラットフォームという色合いが強いです。

厚生労働省との5年間に及ぶ交渉。HONDAから洗車の仕事を得るまでの1年半の営業活動。本人の思いの実現に向けて前田さんを突き動かすものは何かと聞くと、「本人と同化してしまうんです」。BLG!のメンバーの一人が町田市外の病院で、認知症があるために全身拘束されたと聞いた時には、悔しさのあまりその場で大号泣したそうです。

―DAYS BLG!とは?―

DAYS BLG!はメンバー*同士はもちろん、一般企業との連携による就労やボランティア活動などを通して地域や社会ともつなぐ“ハブ機能”を持ったデイサービスです。名称の由来は、DAYS(日々、毎日)とBarriers(障害)、Life(生活)、Gathering(集う場)の頭文字、そして「!」(感嘆符、発信)。「日々の生活場面で生きづらいと思う社会環境が障害であり、その障害を感じている人たちが集い発信していくことで、生活しやすい社会をつくっていこう」という意味が込められています。
1日の利用定員は10名。2020年3月現在、登録メンバーは50~90代の20数名で、大半は認知症がある人です。

*DAYS BLG!では利用者とスタッフという線引きはせず集う人すべてを“メンバー”と呼びます

―DAYS BLG!ある1日の活動―

東急こどもの国線こどもの国駅から徒歩10分ほどの閑静な住宅街。BLG!は民家の1階を借りて運営されています。

民家の一階を借りて運営しているDAYS!
民家の1階がDAYS BLG!

10時前後

BLG!の2台の送迎車でメンバーさんたちが到着。道路工事のため、いつもより30分ほど遅くなりました。お茶を飲み(メンバーさん自身がお茶出しを担当)、スタッフと一緒に血圧と体温をチェック。

10時20分

ミーティング開始。スタッフが、今日の午前中の活動(①こどもの国のベンチ拭き、②銀行で仕事の謝礼金の両替)が書かれた手持ちのホワイトボードを示し、メンバーさん一人一人に何がしたいか尋ねていきます。この日は快晴だったためか、こどもの国のベンチ拭きが人気でした。このように、メンバーさん自身に活動を選択してもらうのがBLG!の特徴。昼食も、自分たちの食べたいものを選びます。この日は、①カラオケボックスで弁当、②外食、③BLG!内でした。

11時

車で10分ほどのこどもの国に到着。多摩丘陵の雑木林をそのまま生かした広大な園内を移動しながら、「これ寒桜かな。もうすぐ咲きそうだ」と自然を楽しみます。11時10分、ベンチ拭きスタート。小さな子どもを連れたお母さんから「ありがとうございます」と声がかかります。30分ほどで今日のベンチ拭きは終了。

子どもたちのはしゃぎ声が響く園内でベンチを拭くメンバーさん
子どもたちのはしゃぎ声が響く園内でのベンチ拭き。
ひと仕事を終え、BLG!に戻るメンバーさん
ひと仕事を終えた充実感。高台から元気に飛び降りる男の子を見て、メンバーさんから「おおっ!」「すごい!」と声が上がる場面も。

12時過ぎ

一仕事終え、カラオケ・ランチで楽しむメンバーさん
「カラオケやってると心が通じ合うんですよ。飾らないで」

いったんBLG!に戻り、昼食へ。カラオケ・ランチを選択したメンバーさん5名、スタッフ1名に同行しました。つぐない(テレサ・テン)、北の旅人(石原裕次郎)、おまえに(フランク永井)、みだれ髪(美空ひばり)……。冗談を飛ばし合いながら、各自熱唱。隣に座ったメンバーさんが、「うまいでしょう。元歌手っていうのが何人もいますよ(笑)」。みんなで、見上げてごらん夜の空を(坂本九)を合唱し、1時間弱でカラオケ終了。

13時50分

コーヒータイムの後に午後のミーティング。ホワイトボードには、①「Hondaの洗車」(ホンダカーズ東京中央・町田東店で展示車の洗車)、②「ショッパー(フリーペーパー)折込」、と書かれています。最初、折り込みを選んだメンバーさんが、別のメンバーさんとスタッフの「どっちでもいいですよ」「だったら人手がほしいのは洗車かな」というやりとりを聞いて、「私も洗車でもいいですよ」。最終的に6人が洗車チームとなりました。

14時30分

ホンダカーズ東京中央・町田東店に到着。スタッフの声を待つまでもなくメンバーさんがバケツに水をくみ、展示車の天井を拭くための台を取りに行きます。この日は、スタッフがホースで展示車5台に水をかけると、タオル拭き開始。ワイパー周りやホイールの溝も丁寧に清掃します。メンバーさんは車好きの世代。Honda社員から、「車に対する愛情を新入社員に見習わせたい」と感心されたそうです。25分ほどで拭き作業終了。

展示車の洗車を行うメンバーさん
細かいところまでしっかり洗車を行うメンバーさん
「こういうところに埃がたまるんだよ」と細かい部分も丁寧に。

(そのころBLG!では)並んでフリーペーパーの折り込みをする男性二人。「引き受けたからにはいい加減にはできないですよ」。海外駐在が長かった元総合商社マンと、多くの特許取得に携わった元エンジニア。職種は違えど、共にアメリカに追いつけ追い越せと奮闘してきました。気の合う会話からお互いへのリスペクトを感じます。

16時

お茶とお菓子をとった後に「本日の振り返り」。どんな活動をしたか記憶に残っていない人もいますが、スタッフが「こどもの国に行きましたね。子どもが多かったですね」と話しかけ、今日1日どうだったか尋ねると、「楽しかった」「ここがあって良かったです」「疲れました」とみなさん充実感や心地良い疲労感を口にします。

お茶とお菓子をとった後、一日の振り返りを行うDAYSメンバー
一人一人、1日を振り返り、「楽しかった」という思いを胸に帰途につきます。
DAYS内の駄菓子屋に来店する地域の子どもたち
振り返りの最中、BLG!の一角で営んでいる駄菓子屋に地域の子どもたちが来店してくれました。メンバーさんが「いつもありがとう」と応対します。

16時30分

一日を終え、自分たちで選んだ送迎車で帰路につく
帰宅送迎。2台の送迎車もメンバーさんたちが話し合って車種を決めました。

1人のメンバーさんのかけ声による1本締めで、本日の活動終了。
一日を終え、自分たちで選んだ送迎車で帰路につく。

インタビューに答えるメンバーさん
メンバーさん(70歳)

ここに来るのは楽しいですよ。最初に来た時は緊張したけれど、それを和らげるように先輩たちが話しかけてくれて、1週間もしたら仲間同士でどんどんしゃべれるようになりました。 今日みたいに公園(こどもの国)に行くでしょう。そうすると私のことを覚えていてくれたのか、小さな子が「ああおじさん、こんにちは」と声をかけくれたりするんです。「こんにちは、よく来てるね。今日はお父さんと一緒?」と聞くと「うん一緒」と言って、お父さんが挨拶に来たり。おもしろいですよ。私は仕事であそこに行ってるんで、人気のある公園にしてあげたいですね。

NPO 町田市つながりの開 DAYS BLG!(デイズビーエルジー)

〒194-0043 東京都 町田市成瀬台3-15-19

TEL:042-860-6469

TEL:042-860-6469

FAX:042-860-6769

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