社会福祉士・精神保健福祉士 / 田中 香枝 さん 社会福祉士・精神保健福祉士 / 田中 香枝 さん
#5
わからないのではなく、
わからないように見える。

社会福祉士・精神保健福祉士 / 田中 香枝 さん

2017年に「若年性認知症支援コーディネーター」になりましたが、
活動の内容と、活動を通して感じたことを教えてください。

若年性認知症のご本人とご家族への個別相談支援が一番多いですね。あとは社会資源の調整──ご本人のニーズに合ったサービスの調整、実施機関・団体等との調整がメインで、地域の方々の啓発のための講演活動などもしています。
若年性認知症の人の支援に関わって実感しましたが、日本の現在の制度は、生産年齢人口(15~64歳)で病気になることをあまり考えていません。特に男性の場合、まだ本人の役割が多い生産年齢人口の時期に病気になり、仕事の継続が難しくなると、本人だけでなく家族の生活にも大きく影響してしまいます。働き続けることを前提に教育にかけるお金を想定し、住宅ローンを組んでいる人も多く、生活が破綻しかねません。
精神的な安定は、経済的な安定があってこそだと思うんです。障害年金や生命保険による制度を利用することで、ある程度は経済的な見通しが安定することをお話しすると、ご本人・ご家族は少し落ち着きます。でもそれで生活のすべてをカバーすることは難しいので、経済的支援制度の充実が必要だと感じています。
ご家族はよく、「何が不安だかわからないけれど不安」と話します。そうした状態はさらに不安を呼ぶので、早くから少しでも不安を軽減し、「大丈夫かもしれない」とひと息ついていただきたいですね。私はできれば診断直後から関わりたいと思っています。

もう一つ、ご本人やご家族を苦しめているのが「社会の目」です。高齢の人が認知症になると、社会は「もう歳だから仕方ないよね」という目で見ます。だけど若年性認知症の人の場合は、近所の人から「まだ若いのに仕事にも行かずに家でブラブラしている」という目で見られたり、「元気そうじゃない。どこか具合い悪いの」と言われたりします。そうした見方や言葉にご本人・ご家族は傷つくんです。認知症による障害のために働けない状況があるのに、そのたいへんさをわかってもらえない。病気と見てもらえない。
自分の身に降りかからない限り、どうしても他人事に思えてしまうのかもしれませんね。先ほどの話につながりますが、自分が知らないもの、見えないものは、自分の関心事にならないという側面があるんだと思います。

 2017年に「若年性認知症支援コーディネーター」になりましたが、活動の内容と、活動を通して感じたことを教えてください。
「できれば診断直後から関わりたい」というのは、
早くから不安に寄り添い、心のケアを最優先するということですか。

寄り添うのもそうですが、病気のことを知ってもらうのも早ければ早いほどいいと思っています。人によって症状の出方は違いますが、認知症のこういう症状のために、こうした状況になっているということをご家族が理解すると、ご本人への声かけが変わるんです。「また忘れちゃって」とか「どうせ覚えていないんでしょう」といった否定的なことはあまり言わなくなります。そういう言葉をぶつけられると、「なんだよ!」と怒ってしまうご本人もいます。それを「認知症のために怒りっぽくなった」と判断するのは間違いかもしれず、だいたいは周囲が「怒らせている」わけです。そうしたこともご家族が理解してご本人に接すると、症状の出方はだいぶ変わってくるでしょう。実際、ご本人が怒ったり興奮したりするケースは以前に比べて減っていると思います。

10年前、20年前と比べてほかに変わったと感じることはありますか。

「本人視点」という意識は昔よりもはるかにありますね。昔は家族の意向、家族の生活を中心に置いて介護保険サービスの利用や入院を決めていました。いまはご本人がどうしたいのかという視点でデイサービスの利用などを検討しています。入院についても、状況に応じてですが、家族の刺激からいったん離れ、日々の興奮状態から解放され、静かな環境でゆっくり休むことを目的に、「楽になりますよ」とご本人に提案することが増えました。誰の視点に立つかという点はずいぶん変わったなあという印象があります。

あなたにとって認知症とは何ですか?(社会福祉士・精神保健福祉士 / 田中 香枝 さん) あなたにとって認知症とは何ですか?(社会福祉士・精神保健福祉士 / 田中 香枝 さん)
――― あなたにとって
認知症とは何ですか?
私が考えたことをご本人やご家族に伝えるのではなくて、ご本人やご家族の想いも話してもらい、共に考えていくことができればと思っています。いまそれを学んでいるところなので、私にとっての認知症とは……私にとっても「付き合っていくもの」かなあ。
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