医師 / 内門 大丈 さん 医師 / 内門 大丈 さん
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ほどよい距離の人間関係が
長寿と長いお付き合いの秘訣です

医師 / 内門 大丈 さん

内門先生が院長をしている「湘南いなほクリニック」は
認知症をはじめとする訪問診療を中心に行うほか、
もの忘れ外来も開設しています。
患者さんたちは何を求めて受診するのでしょう。

まずは話をしっかり聞いてもらいたいというところが大きいのではないでしょうか。あとは病気の説明ですね。そうしたニーズに応えるためにどんな工夫をしているか。このクリニックには1診から3診まで3つの診察室があります。各部屋に看護師と往診同行スタッフが待機し、僕だけが3つの診察室をぐるぐる回る診療方式です。たとえば、1診の患者さんに医療費や生活費の助成制度が必要と判断すれば、社会福祉士のスタッフを部屋に呼び、社会資源の説明をします。あるいは今、具合が悪いのであれば、話を詳しく聞いて慎重に診察をしたり、さまざまな検査を行ったり、その部屋を使い1時間でも2時間でもお付き合いします。その間、他の患者さんは別の2つの診察室で対応するわけです。
そのような受け入れ態勢なので、状態が安定している患者さんも、不安定な患者さんも、ある程度満足していただけているのではないでしょうか。

もの忘れ外来の診察で認知症という臨床診断がついたとします。その時、ご本人やご家族は何を知りたいと願うのでしょう。アンケートなどでは「先々どうなるのか予後が知りたい」という回答が上位にくるのではないでしょうか。でも実際の臨床現場で、予後を聞かれることは決して多くはありません。「最終的にどうなるかを今話されても……」と戸惑う人もいるでしょう。情報としては正しくても、ご本人やご家族によってそれを受け止められるタイミングが異なります。場合によっては、「まあ焦らずに、こういうことから始めてみましょうか」といったゆったりした対応で良いのではないでしょうか。もともと精神科医療は、その人・その時々の状況に合わせてアプローチするものですから。

人格障害や摂食障害など、主に若い人の精神疾患を診るのと、高齢者の認知症を診るのとで、基本的なアプローチに変わりはありません。ただ、若い人の精神科医療が、どちらかというと独り立ちを促す医療、最終的には卒業していく医療といえるのに対し、高齢者の認知症医療は「長くお付き合いできるか」を問われる医療だと思います。最期まで付き合おう。そう考えればおのずから、前のめりになるというか、時間をかけて踏み込んでいく関わり方になるのではないでしょうか。

最近は認知症に関する情報が簡単に手に入るので、非常に早期、たとえばMCI(軽度認知障害)の段階で相談に来る人も増えています。「現時点では認知症ではないので、ここ(医療機関)に来る必要はありません」といった対応では、その人たちの不安を受け止められません。私は、先ほど話したように認知症の状態をスペクトラムとして捉え、「半年後か1年後にまた診ましょうか」と提案しています。定期的にフォローするだけでも、何らかの心の支えになれるのではないかと思っています。

これからの時代は、“もの忘れのかかりつけ医”といった存在が必要とされるようになるかもしれないですね。認知機能の衰えに対する不安に寄り添いながら、生活習慣病の予防や改善を図り、それによって認知機能低下のリスクも減らす。認知症になった場合には、長いスペクトラムを共に過ごしていく。それはやはり、かかりつけ医的な感覚なのだと思います。

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“もの忘れのかかりつけ医”の存在もそうなのでしょうが、
認知症の有無にかかわらず、健やかに歳を重ねていくためには
どのような環境が必要なのでしょうか。

長寿の島として知られるイタリアのサルディーニャ島で長生きの要因を調べた研究があります。「適正な体重」や「運動」などよりも強力な要因として、4位と3位には「禁酒・節酒」「禁煙」が入りました。さらに上位の2位に挙げられたのは「親密な人間関係」です。具体的には、急にお金が必要になった時に借りに行ける相手や、体調が悪くなった時に医者を呼んでくれたり病院に連れて行ってくれたりする人などがいると、長生きの可能性がぐっと高まるということです。
そして1位は何かというと、「social integration(社会的統合)」と呼ばれるもので、日々どれぐらいの人と交流があるかを示します。たとえば、郵便局員さんが荷物を届けてくれた時に挨拶をするとか、犬を連れて毎日散歩する人と会話を交わすとか、ポーカーをしたり読書クラブに入るとか……。決して親密な関係ではありませんが、社会の中に自分が組み込まれているという感覚がある。人間関係が浅くてもいいんです。むしろ適度な距離があるほうが心地良かったりもするわけです。

僕には趣味という趣味がなかったのですが、最近たまたまきっかけがあり、横浜市内にあるヨットハーバーでヨットに乗るようになりました。大学3年生の時に、「内門、今、入部すれば未経験者でもレースに出られるぞ」と先輩に誘われてヨット部で活動して以来のことです。13人チームの一番下っ端ですが、強風の時は命の危険を感じたり、非日常感を楽しんでいます。そのようにハードな面もあるスポーツですが、高齢のメンバーも多いんですよ。ハーバーに仲間といるだけでも、リラックスした様子で楽しそうに時間を過ごしています。歳を重ねるにつれできなくなることも増えますが、“その場に身を置ける趣味”があるだけでも、ずいぶん違うのではないでしょうか。それもSocial integrationなのかもしれません。

認知症の臨床にも同じことがいえるように思います。もちろん医師として厳格に対処すべき時はそうしますが、一方で少しゆるくというか、あまりかしこまらずにお付き合いしていくほうが、その人を支えられるのかもしれません。ある意味そこが一番キーになるような気がしています。

あなたにとって認知症とは何ですか?(医師 / 内門 大丈 さん)
――― あなたにとって
認知症とは何ですか?
ライフワークかな。おそらく死ぬまで認知症関連の仕事をしていくのだろうという気がしています。以前よく考えたことですが、誰もがなりうる認知症は、人種や宗教を超えた世界共通のテーマといえるのではないでしょうか。いろいろなことを考えるうえでのキーワード、考えさせられるキーワードになると思います。
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