デイサービス管理者 / 橋本 剛 さん デイサービス管理者 / 橋本 剛 さん
#4
いつだって新しいスタートは切れる。

デイサービス管理者 /
橋本 剛 さん

テーマを決めないゆるやかな集まりに
強くひかれる部分もあったのでしょうか。

そうですね。正直いって、私は大人になってからは“友だち”ってそうはできないと感じていました。意図的につくろうとしないと難しいと──。趣味の仲間ならできるかもしれません。でも、別に趣味とかに関係なく、ただ何か話がしたい時に聞いてくれる人がいてくれる。そういうことってなかなかないのかなあと、漠然とした思いはありました。

気の置けない飲み会で率直な思いを話したことが発端となり、談義所(まだその名前もついていません)への参加を呼びかけるようになりました。最初のうちは5人来てくれればいいほうで、メンバーも品川区内で働く介護や福祉の関係者などに限られていました。
会を開いて3、4回目だったでしょうか。さくら会が運営する居宅介護支援事業所のケアマネジャーさんから、「橋本さんたちの集まりに興味がありそうな若年認知症の方がいらっしゃるので、声をかけてみてもいいかな」という話がありました。そこで初めて参加してくださった認知症のご本人が、現在、厚生労働省の認知症本人大使「希望大使」を務めている柿下秋男さんでした。

柿下さんが継続的に参加し、認知症のご本人の立場からいろいろなお話をしてくださる中で、談義所としても何かできることはないか、といった声があがるようになりました。それからは、柿下さんご自身がいろいろなつながりをつくり、私たちを引っ張ってくださるかたちで談義所の活動が広がっていきました。
同様に、やはり認知症のご本人である三橋昭さんの地域での活動や、品川区在住の飲食店経営者、新聞記者などさまざまな方々の協力を通して、意図しないところでゆるやかなつながりがどんどん増えています。私が見ていてわくわくするぐらいです。

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お話を聞いていると、認知症があるかないかという部分は
それほど大きな位置を占めていない印象も受けます。

あらためてそのように問われ、「そうです!」と答えるのも違和感があります (笑)。それぐらい意識していないということです。認知症の人に限らず、困っている人がいて、その人が助けを求めているなら、手を貸すのはふつうのこと。そう思う人たちがここに来ていますし、そのような雰囲気がいいと柿下さんや三橋さんも話してくれています。

一昨年、談義所の常連さんの呼びかけに、いつものように柿下さんたちが「おもしろそう」と反応し、静岡県富士宮市で行われたソフトボール大会(「Dシリーズ」注2)全日本認知症ソフトボール大会)に出場しました。ただ私はスポーツ音痴で、さっき話したようにコミュニケーションが苦手なほうなので、ちょっと気乗りがせず「Dシリーズ」には参加しませんでした。
認知症関連のイベントだから参加しなきゃいけない、といった意識は私にはありません。談義所に来ているみなさんも一緒だと思います。何かをやりたいという人たちが声をあげて企画が起こり、「俺も参加するよ、やってみよう」という人や「手を貸すよ」という人が出てくる。その企画には参加しない人たちもいて、でも別の企画には手を挙げるかもしれない。そうしたゆるい感じで談義所はずっとやってきています。

私は「Dシリーズ」には参加しませんでしたが、「すごく楽しかった」というお土産話を聞いて心底「よかったなあ」と思う自分がいます。その人が楽しければ私も楽しいし、つらかったり不安だったりすれば私にもそういう感情が起こるのでしょう。認知症の人だから特にそう感じるのかというと、たぶん違うはずです。談義所の誰に対しても一緒だと思います。

注2) Dシリーズ:Dementiaシリーズ(全日本認知症ソフトボール大会)。認知症になってもやりたいことに熱く打ち込みたい、挑戦し続けたい! そのような本人さんたちの声から、真剣勝負のソフトボール大会を実現。

談義所での活動を踏まえ、
認知症の人たちに伝えておきたいことはありますか。

どれだけさまざまな人に出会うかによって大きな違いが生まれると思います。限られた人としか出会わなければ、「認知症という枠の中で生きていくしかない」というあきらめの感情が無意識のうちに定着してしまうかもしれません。

私は施設で接する認知症の人たちに、できるだけ談義所のことを伝えるようにしています。興味があればぜひ参加してほしいし、柿下さんや三橋さんともつなげていきたい。認知症だからといって世界観を狭めてほしくはないのです。
私の話を聞いて「動いてみよう」と思う人もいれば、なかなか足を踏み出さない人もいます。もともと人はさまざまなので、そこは本人にゆだねるしかありません。ただ、認知症になってからも好きなことを楽しんでいる人たちがいて、それが決して特別でないことは知っておいてもらえるといいなと思っています。

自分自身が認知症の診断を受けた時、やりたいことができていたらうれしいですね。まあ、私はたいして趣味があるほうではないのですが、人との出会いがそうであるように、いつでもたぶん新しいスタートは切れる気がしています。柿下さんは認知症になってから写生を始めました。三橋さんはイラストを描くようになりました。お二人ほど活動的ではなくても、診断を受けたあとでやってみたら楽しかったこと、続けたいと思うことも出てくるはずです。私みたいな人間はきっとそういうタイプなのかもしないですね。

あなたにとって認知症とは何ですか?(デイサービス管理者 / 橋本 剛 さん) あなたにとって認知症とは何ですか?(デイサービス管理者 / 橋本 剛 さん)
──あなたにとって認知症とは何ですか?

新しいステージでしょうか。認知症というとまだまだネガティブなイメージが先行しますが、何か新しいきっかけになることもあるはず。柿下さんは認知症になってから、談義場でさまざまな人とつながり、ライフワークと呼べる活動に出会い、新しい自分を見いだしました。ポジティブな面をことさら強調するつもりはありませんが、新しいきっかけの一つにはなると思います。

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