認知症の原因になる疾患

監修:九州大学病院
精神科神経科 診療准教授 小原 知之

アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症の三大認知症以外にも、認知症の症状を呈する疾患はあります。三大認知症と似た症状が出現することがある一方で、適切な治療を行うことで治るものもあり、しっかりと鑑別することが重要になります。

内分泌・代謝系が関与するもの

内分泌・代謝系が関与するもの

胃を切除した人に起こりやすいビタミンB12欠乏症、アルコール依存症の人がなりやすいビタミンB1欠乏症、甲状腺機能低下症などによって、認知症のような症状が出ることがあります。このうちビタミンB12欠乏症では、記憶障害や注意力の低下などの認知機能障害のほか、抑うつ症状や妄想などの精神症状、自律神経障害などを生じることがあります。

ビタミンB1欠乏症が進行すると、意識障害などを呈するWernicke(ウェルニッケ)脳症を発症することがあります。早急に適切な治療が行われなければ、Korsakoff(コルサコフ)症候群に移行するとされています。コルサコフ症候群では、見当識の障害、健忘(過去の経験を思い出せなくなる)、作話などの症状がみられます。ウェルニッケ脳症は回復が望めますが、コルサコフ症候群は一度発症すると元の状態に戻ることはないとされています。

脳外科的介入が必要なもの

特発性正常圧水頭症や慢性硬膜下血種、脳腫瘍、頭部外傷なども、認知症でみられるような症状を引き起こすことがあります。ただし、これらのほとんどは外科的な治療法があり、原因を取り除くことで多くの場合、認知症の症状も消失します。

脳脊髄液が脳内に貯まる病気のことを水頭症といい、そのうち原因が明らかで脳脊髄液圧が正常範囲のものを正常圧水頭症、原因が不明であるものを特発性正常圧水頭症といいます。特発性正常圧水頭症は高齢者に多く、歩行障害を主体に尿失禁、注意力や気力の低下といった認知機能障害が生じます。

慢性硬膜下血種は、頭部外傷の後に脳と硬膜(脳脊髄膜のうち最も外側の強靭な膜)の間に血(血種)が貯まる病気です。脳が圧迫されることでさまざまな症状が出現し、認知症の症状もその一つです。外科的治療で血種を取り除けば、ほとんどの場合、症状は改善します。

感染症や炎症が関与するもの

梅毒やプリオン病、ヘルペス脳炎、HIV脳症などの感染症、多発性硬化症や辺縁系脳炎、橋本脳症などの炎症性(自己免疫性)疾患も、認知症の原因となることがあります。このうち梅毒や一部の辺縁系脳炎、橋本脳症は、早期に適切な治療を行えば回復も望めるため、他の認知症疾患との鑑別が重要になります。それ以外については、症状の進行を抑えたり、緩やかにする治療はありますが、今のところ完治させる方法はありません。

遺伝の影響が強いもの

家族性アルツハイマー病や家族性プリオン病、家族性脳血管性認知症、この3つは多因子疾患(多数の遺伝子が作用し、さらに環境要因が加わって起こる疾患)のなかでも、遺伝子と密接な関係があることがわかっています。

家族性アルツハイマー病は若年発症を特徴とします。「家族性アルツハイマー病の人及びその家族に対する支援体制に関する調査研究事業」で行われた調査によれば、約50%が40~50歳代に発症していました1)。認知症疾患治療ガイドラインでは、65歳以下で発症する早期発症型アルツハイマー病のうち、約10%が家族性アルツハイマー病であるとしています2)。これまでに3種類の原因となる遺伝子が判明しています。

家族性脳血管性認知症は、皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)とも呼ばれ、国の指定難病に指定されています。脳梗塞が多発、再発するのが特徴で、それを繰り返すことで認知症の症状が出現します。根本的な治療法はありませんが、生活改善など脳梗塞の予防に努めることが、認知症への進展予防にもつながるとされています。

錐体外路症状を伴うもの

錐体外路症状を伴うもの

錐体外路症状を伴う認知症はいくつかあり、代表的なのがレビー小体型認知症、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症です。

進行性核上性麻痺では錐体外路症状のほか、眼球の動きが悪くなる(主に上下方向の動き)、スムーズに話すことが難しくなる(のどや口、唇の動きが鈍くなる)、飲み込みづらくなる――などの症状がみられます。アルツハイマー病と同じく、脳内にタウと呼ばれる異常なたんぱく質の沈着が認められますが、そのプロセスや神経細胞が脱落する要因の詳細はまだわかっていません。

大脳皮質基底核変性症では、左右差の大きい錐体外路症状のほか、失語、失行、他人の手兆候(片手がまるで他人の手のように勝手に動く)、把握反射(触ったものを反射的につかむ)――などの症状が出現します。近年は、左右差がない、進行性核上性麻痺に似た症状がみられるといった非典型的な例も報告されるなど、その臨床像が極めて多彩であることが明らかになってきています。

臨床診断が難しいもの

認知症の診療では、典型的な症状や脳に起こる特徴的な変化はわかっていても、いくつもの認知症病型の症状が重なっていたり、現在実施できる各種検査や神経心理検査を尽くしても確認しきれない部分があるなど、明確な診断が難しいことがあります。

臨床診断が難しい主な認知症は以下のとおりです。

  • 典型的な症状がないアルツハイマー型認知症
  • 典型的な症状がないレビー小体型認知症
  • 典型的な症状がない血管性認知症
  • 典型的な症状がない前頭側頭型認知症
  • 進行性核上性麻痺
  • 大脳皮質基底核変性症
  • 嗜銀顆粒性認知症
    不機嫌になったり、唐突に怒ることが多くなるといわれています
  • 神経原線維変化型老年期認知症
    記憶力がゆっくり低下していくという特徴があります

原因が明確である認知症以外は、臨床診断は難しいのが実情です。したがって多くの場合、「おそらく〇〇認知症である」という予測の下で、治療やケアを進めていくことになります。また、認知症はその進行に伴い複数の病型が合併することもしばしばあるため、時間の経過とともに診断名が変わり、治療やケアが見直されることもあります。

そのため、自分自身あるいは周囲の人が感じている、生活における違和感やその時々の症状などは、きめ細かく医師やケアスタッフに伝えると良いでしょう。それを繰り返してこそ、その人に本当に適した治療やケア、支援に行きつくのではないでしょうか。

1)平成25年度老人保健事業推進費等補助金 老人保健健康増進等事業「家族性アルツハイマー病の人及びその家族に対する支援体制に関する調査研究事業

2)認知症疾患治療ガイドライン2010

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