家族が軽度認知障害(MCI)かも?

更新日:2022/08/01

記事監修

東京都健康長寿医療センター 脳神経内科 部長
岩田 淳 先生

家族にアルツハイマー病によるMCIと思われる症状がみられたら、不安を感じて早く病院に連れて行こうと思うかもしれません。しかし、不用意に受診を促すことは避けるべきです。本人を傷つけるだけでなく今後の治療に影響する可能性もあるからです。どのように対応すればよいのか。順を追って解説します。

家族がMCIかも、と思ったら専門医に相談

家族のアルツハイマー病によるMCIを疑ったときに注意したいこと

テレビやインターネットをはじめ最近は認知症の情報があふれており、なかには不安を感じてしまうようなものもあります。家族のちょっとしたもの忘れにも「もしや認知症では?」と心配になってしまうかもしれません。ですが、もの忘れが見られたからとすぐに認知症と決めつけてしまうのは早計です。

アルツハイマー型認知症、アルツハイマー病によるMCI、老化現象の違い

高齢者のもの忘れの原因としてまず考えられるのが、「老化」「アルツハイマー型認知症」「アルツハイマー病によるMCI」の3つの可能性です。
「老化」は加齢による自然現象です。人間の記憶力は60歳頃を境に、緩やかに低下していくとされています。「とっさに人やものの名前が出てこない」「朝食の献立が思い出せない」といったもの忘れは、老化によるもので誰にでも起こりうることなのです。
一方の認知症やMCIは脳の病気によるものです。「すでに知っているはずの人やものを知らないと言う」「朝食を食べた体験そのものを忘れている」など、もの忘れの性質が老化とは根本的に異なります。
最終的には医師の判断を仰ぐことになりますが、家族のもの忘れが老化によるものか認知症によるものか、まずはご家族がそれぞれの特徴を理解して冷静に見定めることが大切です。

アルツハイマー型認知症の特徴

  • 体験したことそのものを忘れる(食事したことを覚えていないなど)
  • 記憶力だけでなく判断力や計算力も低下する
  • 自分のもの忘れについて理解できていない
  • 認知力の低下から日常に支障をきたす

アルツハイマー病によるMCIの特徴

  • 認知症の前段階
  • ほかの同年代と比較してもの忘れが多いが、その自覚は(時々ではなく)常にある
  • 体験したことは憶えているが、詳細の内容をよく(すぐに)忘れる
  • 日常生活では困ることはあるが、独立して生活することは可能

老化によるもの忘れの特徴

  • 体験の一部を時々忘れる(食事をしたことは覚えているが何を食べたかを思い出せないなど)
  • もの忘れを自覚している
  • ヒントがあれば思い出せる
  • 日常生活に支障をきたすほどではない

監修:東京都健康長寿医療センター 脳神経内科 部長 岩田 淳 先生

直接的な表現は本人の自尊心を傷つける

老化ではなく認知症によるもの忘れが疑われる場合は、早期の受診が望まれます。このとき避けたいのは、「認知症では?」「認知機能のテストを受けてみたら?」など直接的に伝えること。本人の自尊心を傷つけてしまう可能性があるからです。また、もし診察を受けて問題がなければ、「正常なのに疑われた」と心にしこりが残り、お互いの関係にヒビが入ってしまうおそれもあります。

本人を傷つけることなく確認するには

アルツハイマー病によるMCIが疑われたときは、本人に気づかれないよう慎重にチェックしてみましょう。

会話の中でそれとなく

日常会話の中でさりげなく「明日の病院の予約、何時だったっけ?」「3日前の事故ってどこで起きたんだっけ?」と聞くなどすれば、アルツハイマー病によるMCIを疑っていると本人に気づかせることなく、記憶や認知機能について確認することができます。一度にいくつも質問すると感づかれてしまうおそれがあるため、数日に分けて少しずつ聞いていくとよいでしょう。

日常の様子もチェック

アルツハイマー病によるMCIでは、最近起きた出来事についての記憶があいまいになることがあります。そのため、日々の会話の中で誰もが知る最近の重大ニュースについての記憶があやふやだったり、冠婚葬祭のような特別な出来事を憶えていないといったことが見られたときは、アルツハイマー病によるMCIを疑うサインといえます。

アルツハイマー病によるMCIの可能性が高い!本人を傷つけず病院に連れていくには

アルツハイマー病によるMCIが疑われ、受診が必要だとしても、本人に認知症についての話を一切しないまま病院に連れていくのは難しいことです。だからといって、何もしないままでは症状がどんどん進行してしまう可能性があります。本人を傷つけることなく受診させるにはどうすればよいのでしょうか?

病院に行く前向きな理由をつくる

近年は、「将来に向けた予防の相談」なども行う「認知症対応が可能な医療機関」として、各地に認知症疾患医療センターがあります。「もの忘れ外来」という専門外来を設けているクリニックのような小規模な医療機関も増えており、気軽に相談、受診ができる体制が整ってきています。
不調の自覚がない人に「病院に行きましょう」と言ったところで、不審に思われるだけです。たとえば夫婦ならば、「お互いにいい歳だし、これからも健康的に過ごせるように一度、脳によい習慣について教わってみない?」など、「将来のために行く」という理由づけをすることですんなりと受け入れてもらえることがあります。それでも前向きになってもらえない場合は、柔らかい言い方で今の本人の状況を説明することが受診につながることもあります。

病院には事前に連絡

病院に到着し、診察の順番が迫るにつれ不安や恐怖が高まり、受診をキャンセルしたいと訴えることも十分に考えられます。できるだけスムーズに診察が受けられるよう、事前に病院に連絡して状況を説明しておくなど、協力を願い出ておくとよいでしょう。

決して強引には連れて行かない

どのような働きかけをしても受診を拒まれることもあるでしょう。そうした場合は無理強いせず、いったんその日はあきらめて別の日に変更することも考慮すべきです。強引に連れていき、本人の家族や医療機関に対する不信感が高まれば、今後の治療の障害になってしまうこともあります。強制したり、強い言葉で責めることも避けなければなりません。
また、MCI段階では記憶障害の自覚があり、本人が1人で受診することもあります。ただ、医師や医療従事者がより正確に診断、判断するためには、診察時に日常生活のことや症状をなるべく詳細に伝えることがポイントになります。日頃から生活を共にしている人が、できるだけ一緒に受診することをおすすめします。

アルツハイマー病によるMCIと診断されたら心のケアと発症予防を

認知症の人は「自分が病気であると認識していない」と思われがちです。しかし、MCIの段階では自分の状態を自覚していることも多く、自身の身に起こる変化に誰よりも本人が強い不安を感じています。そんな中でMCIと診断されれば、本人が受けるショックは大きく、激しく落ち込んでしまうかもしれません。
しかし、MCIは食事や運動、生活改善などによる予防を心がけることで、進行を遅らせたり、改善が期待できることもあります。そして、本人が前向きに予防に取り組んでいくためには、家族や周囲が協力を惜しまず、支えとなることが大切です。

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