軽度認知障害(MCI)とは?

更新日:2022/08/01

記事監修

東京都健康長寿医療センター 脳神経内科 部長
岩田 淳 先生

認知症ではないけれど、以前に比べ認知機能が低下してきている状態を軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)といいます。この段階で適切な予防や治療を行うことで、認知機能の改善や認知症の発症を遅らせることが期待できます。まだまだ広くは知られていませんが、その症状や特徴について知識を持つことはとても大切です。 専門医や支援施設に相談してみる。

MCIは、正常な状態と認知症の中間

記憶や判断などを行う脳の機能(認知機能)が低下して、生活に支障が出るようになると認知症と診断されます。しかし、自分自身や周囲の方が、以前に比べて認知機能は低下を感じているものの、日常生活に支障が生じるほどの大幅な低下でない、認知症の一歩手前の状態も存在します。この状態をMCIといいます。
認知症の症状が明らかになる前に、「何かおかしい」「以前とはどこか違う」と感じる人が多いようです。

MCIと認知症の違いは?

MCIの臨床的な定義は以下のとおりです1

MCIの臨床的な定義
  • 記憶障害の訴えが本人または家族から認められている
  • 客観的に1つ以上の認知機能(記憶や見当識など)の障害が認められる
  • 日常生活動作は正常
  • 認知症ではない

MCIになると、日常生活や仕事に軽い支障をきたす場合もありますが、何らかの工夫や支援があれば自立できます。そこが認知症との違いになります。

MCIの症状

背景にある原因はアルツハイマー病や脳血管障害、レビー小体病などさまざまで、個人個人によって現れる症状が異なります。旅行の計画や明細書の整理など細かな金銭管理、服用している薬の管理といった複雑な作業に時間がかかったり、軽い支障をきたす場合があります。

加齢と認知機能。MCIの人のうち、認知機能が戻るのは16~41%/年。認知症に進む人は5~15%/年。

MCIは、必ず認知症に移行するか

MCIは、さらに認知機能が低下し認知症に至る可能性のある状態といわれています。ただ、原因によっては現状が保たれたり、回復したりすることもあるため、MCIの方が必ず認知症になるわけではありません。これまでさまざまな研究が行われ、1年で5~15%の人が認知症に移行するとされる一方、1年で16~41%の人が健康な状態に戻ったとする報告もあります2

MCIの原因とは?

MCIの原因として最も多いと考えられているのは、「アルツハイマー病によるMCI」です3
一方で、MCIは認知症を引き起こす脳の病気だけでなく、体や心の問題でも起きることがあります。

MCIの原因となるアルツハイマー病とは?

アルツハイマー病は、認知機能が正常な状態から認知症まで、長い時間をかけて少しずつ進行していきます。
アルツハイマー病はアミロイドベータという物質が脳にたまることが原因で引き起こされます。
アミロイドベータがたまり始める頃は、認知機能は正常で症状もありませんが、アミロイドベータが多くたまってくると、神経細胞が障害されて認知機能が低下していきます。軽いもの忘れなどの症状があらわれるMCIの状態を経て、日常生活に支障をきたすアルツハイマー型認知症へだんだんと進行します。

アルツハイマー病による軽度認知障害とは?

アルツハイマー病によるMCIとは、アルツハイマー型認知症を発症する一歩手前の段階といえます。MCIの段階であっても、アルツハイマー型認知症と同様に脳の中にアルツハイマー病の原因であるアミロイドβの蓄積が認められます。 2012年の時点でMCIの高齢者は約400万人と報告されています3。アルツハイマー型認知症が認知症の原因疾患の5~7割を占めることを考えると、MCIの多くはアルツハイマー病によるMCIであると推測されます。

アルツハイマー病によるMCIの症状

主な症状は記憶障害です。もの忘れは歳を重ねれば誰にでもみられますが、アルツハイマー病によるMCIは、実年齢に見合わないほどのもの忘れが出現します。たとえば生活の中で以下のような言動がみられます。

  • 少し前に聞いたことを忘れて何度も繰り返す
  • 世間を騒がせた最近の大きなニュースの内容の記憶があいまい
  • 数週間前の特別なイベントの内容があいまい(誰の結婚式、どこで開催されたなど)
  • 少し前のことでも忘れてしまうことがよくある

アルツハイマー病によるMCIとアルツハイマー型認知症の違い

アルツハイマー病によるMCIとアルツハイマー型認知症の違いは、自立して日常生活を送れるかどうかという点です。
生活におけるさまざまな動作は、ADL(Activities of Daily Living、日常生活動作)と呼ばれます。ADLは基本的ADL(食事や入浴、トイレ、着替えなど生活において最低限必要となる動作)と手段的ADL(買い物や家事、金銭管理など何かをするための少し複雑な動作)に分けられます。アルツハイマー型認知症ではこの両方が障害されます。
一方のアルツハイマー病によるMCIでは、記憶障害により手段的ADLの低下はみられますが、基本的ADLは保たれます。買い物や家事は今まで通りとはいかず、生活にまったく影響がないわけではありません。それでも家族や周囲の介護、介助を必要とするほどではなく、日常生活に大きな支障をきたすこともありません。

監修:東京都健康長寿医療センター 脳神経内科 部長 岩田 淳 先生

アルツハイマー病によるMCIは早期発見が重要

アルツハイマー病によるMCIは、数年でアルツハイマー型認知症に移行するといわれています4。しかし、運動や健康的な食事、生活習慣病の管理など適切な対策や治療を行うことで発症を遅らせられる可能性があります。このような対策は早くから行うほど効果が高いとされ、認知症の発症予防のためにはMCIの早期発見が欠かせません。より多くの人たちがMCIについて知識を持ち、自分自身の脳のコンディションや脳の健康を意識したり、周囲の人たちの変化に敏感になることが大切といえます。

(参考文献)
1,Albert MS, et al: Alzheimers Dement.2011;7:270-279
2,日本神経学会監修: 認知症疾患診療ガイドライン2017, 医学書院, p147, 2017
3,厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野認知症対策総合研究
「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」平成23年度~24年度総合研究報告書
4,Sperling RA, et al: Alzheimers Dement. 2011;7: 280–292.

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