脳に起こる変化

監修:東京医科大学
高齢総合医学分野 主任教授 清水 聰一郎

認知症ではさまざまな症状が生じます。多くは脳の変化に起因するものです。近年はバイオマーカーを用いた研究が進められ、例えばアルツハイマー病における脳の変化は、認知症の症状が出現するはるか前から始まっていることもわかっています。

認知症における脳の変化とその症状

アルツハイマー病をはじめ一部の認知症は、脳に後戻りすることのない変化が起こることで生じます。変化が起きた部位に応じて、脳や身体のさまざまな機能が今まで通りに働かなくなり、それまで当たり前のようにできていたことができなくなったり、やりづらくなったりします。

いくつかある機能の低下のうち、特に日常生活や社会生活を難しくするのが認知機能の低下です。認知機能は、周囲の状況を正しく認識し、実行するための機能のことで、以下のようなものが挙げられます。

  • 記憶力
  • 注意力
  • 言語機能
  • 身につけた一連の動作を行う機能
  • 目や耳などの五感を通じてまわりの状況を把握する機能
  • ものごとを計画し順序だてて実行する機能(遂行機能)
  • 時間・場所・人物などから自分の置かれた状況を判断する機能(見当識)

例えば注意力が低下すると、それまで問題なくできていたことを間違えたり、時間がかかることが増えます。人それぞれですが、会話についていけなくなったり、集中を保ちづらくなったりします。

認知機能の低下以外にも、次のような症状が生じることがあります。

  • 意欲の低下(アパシー)
  • 幻覚
  • 錐体外路症状
  • 自律神経の機能の低下
  • 意識の清明さが変動する
  • 社会生活を営む上での適切な判断が難しくなる(社会的判断能力の低下)

錐体外路症状はパーキンソニズムとも呼ばれるものです。手足の震えが生じたり、歩行が小刻みになったり、転びやすくなったりします。レビー小体型認知症で特に多くみられる症状です。

バイオマーカーを使い、アルツハイマー病の本質に迫る

認知症の原因の過半数を占めるとされるアルツハイマー病。脳の神経細胞が徐々に失われていく病気ですが、ある日突然、認知症になるわけではありません。脳の変化や記憶などの認知機能の衰えは、認知症と診断される前から、ゆっくりと連続的に進行しています。

アルツハイマー病による脳の変化は、症状からもある程度は推測できますが、限界もあります。もの忘れなどの症状は、アルツハイマー病だけでなく、ほかの病気でも生じることがあるからです。鼻水やくしゃみの症状が、風邪だけでなくアレルギー性鼻炎でも見られるのと同じです。

このようなこともあり、近年は症状の確認やMRIなどの画像検査に加え、客観的な指標であるバイオマーカーを活用して、脳の変化をとらえる取り組みが行われています。バイオマーカーとは、病気の有無や進行度を知るための目安となる物質や検査結果のことです。

アルツハイマー病では、20年以上も前から病変が進行

脳の中にアミロイドβ(ベータ)というたんぱく質がたまることが、アルツハイマー病の大きな特徴とされています。この物質をバイオマーカーとした研究が長年続けられてきた結果、脳の中のアミロイドβというたんぱく質の蓄積は、認知症を発症する20~30年前から始まっていることがわかりました。

また、アルツハイマー病のもう一つの特徴的な病理変化とされるタウというたんぱく質の蓄積も、発症の約10年前から始まっていることが明らかになっています。

今後は、認知症の原因となるアルツハイマー病以外の病気に対しても、バイオマーカーを使って病気の本質に迫る研究が進められていくでしょう。認知症を発症する前の段階から進行している脳の変化を突き止めようという動きは、いっそう加速していくと考えられます。

(参考文献)Sperling RA et al.:Alzheimers Dement 2011;7(3):280-292

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