見当識障害とは?その症状と対応法

更新日:2021/12/09

記事監修

高知大学 医学部 神経精神科学教室 教授
數井 裕光 先生

見当識障害は時間・場所がわからなくなる状態

見当識障害とは「今がいつか(時間)」「ここがどこか(場所)」がわからなくなる状態です。
環境が変わった時(引っ越しや入院、子供との同居)にとりわけ強く現れるようです。

見当識の現れ方

アルツハイマー型認知症の方は「もの忘れ」に続いて、「見当識障害」も起こしやすいといわれています。
健康な方でも昼寝をして目覚めたときなど、今が昼か夜か、また、どこで寝ていたのかとっさに判断がつかなかったことがあると思います。
アルツハイマー型認知症の方は記憶が障害されていますから、混乱や不安はいっそう大きなものになります。
レビー小体型認知症の方は「もの忘れ」よりもむしろ「見当識障害」が目立つことがあります。
初期には、特に認知機能の状態が悪い時に、この混乱を起こしがちです。しかし、状態がよい時ははっきりされていますし、ご自分が見当識に弱いことを自覚されている場合もあります。

昔の思い出のなかに生きているように思えることも

どちらの病気も、今を、自分が若かった頃と勘違いして、周囲の人や状況をその頃にあわせて解釈しようとすることがあり、たいていは、ご自身が一番輝いていた時代、たとえば会社でバリバリ仕事をしていた頃や、子育てに追われていた頃に戻ることが多いようです。
昔のことを今のように話されますので、「昔の思い出のなかに生きている」ようにも思えます。

「子供はまだ小学生」と思っているため、おじさんになった息子が顔を出しても誰かわからなかったり、夫と間違えることも起こりがちです。
朝・昼・晩の区別がつかなくなって、夜中に買い物に行こうと出かけることもあります。季節感も乏しく、季節にあった服装が選べなくなります。
「ここは自分の家ではない」と言い、昔住んでいた家や実家に帰ろうとされることもあります。

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対応法

時間の見当識

  • 初期のうちは、なじみのカレンダーをなじみの場所に貼って、毎朝ご家族と一緒に○をつけ、「今日は○月○日○曜日」と確認するのがよいでしょう。(レビー小体型認知症の方は見えていても、見ているものを正しく把握しにくいことがあるため、一緒にカレンダーの日付を読んであげてください)
    次々と先取りで○をつけ、結局わけがわからなくなってしまう場合もあります。誰かがつきそって一緒に○をつけましょう。
  • 日ごろの会話のなかに「もう春ですね、暖かくなりましたね」「今日は7月7日、七夕ですよ」など、季節や日付を感じさせる内容を意識して盛り込みましょう。
  • 時計を新しくする機会があれば、日付・曜日・午前・午後の入ったデジタルのものを選ぶとよいでしょう。
  • 窓を開けて日光を取り込み、明るさからも昼夜の区別がつくようにしましょう。
  • 若い頃に戻っておられる方に「違います」と現実の年齢を告げることはあまり意味がありません。あえて否定せず、相槌を打ちながらご本人の話を真剣に聞いてさしあげてください。

場所の見当識

  • 「ここは自分の家ではない」と思っている場合に「あなたの家です」と説得するのは難しいことです。家かどうかで言い争うより「とにかくここは( 自分の家ではないかもしれないが)居ても安心できるところだ」と思ってもらうことが先決でしょう。
  • 転居や改築、施設への入所など住む環境が変わる場合は、本人の思い出の品や使い慣れている家具などをできるだけもっていきましょう。
  • 同様に病気や怪我などによる入院も、混乱を引き起こす原因になることがあります。
    入院した場合は、できるだけご家族が面会に行って、ご本人が不安にならないように気を配ってあげることが大切です。ご家族が思っているよりも早い段階で退院を医師から提案されることもあると思います。

人の見当識

  • アルツハイマー型認知症では、時間や場所の見当識と比較すると、人に対する見当識は長く保たれます。それでも、かなり進行するとご家族の見分けがつかなくなってしまいます。鏡に映る自分の姿を自分だとわからなくなることもあります。しかし、知人程度なら、わからなくても上手に「とりつくろ」って不自然さを感じさせません。これはアルツハイマー型認知症の方の素晴らしい能力です。
  • レビー小体型認知症では比較的早期からご家族を見てもわからなかったり、実際には子供が一人しかいないのに「もう一人息子がいる」などと言って周囲の人を驚かせることがあります。
    その場合、「違います」とすぐに否定したり説得しようとしたりすると、かえって混乱して怒りだしたり、パニックを起こすこともあります。まずはご本人の訴えをよく聞いて、不安があればその軽減をはかりましょう。
  • ご本人が「馬鹿にされている」「軽く扱われている」と思わなければ、ご家族のことをわからなくなることがあっても、お互いの信頼関係を保ち続けることができます。
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