認知症によるデイケア・介護サービスの拒否への対応法

更新日:2021/12/09

記事監修

高知大学 医学部 神経精神科学教室 教授
數井 裕光 先生

デイケアなどの介護サービスの利用は、認知症の患者さんとご家族が在宅生活を穏やかに送る助けになります。
患者さんご本人にとって望ましい生活の基本は、「活発な生活を安全に」です。しかし活発な生活と安全な生活はしばしば相反します。色々なところに出かけるなどして活発な生活を送ろうとすると事故にあったり、怪我をしたりする確率が高くなります。逆に安全のために家にこもってしまうと頭や体がさびついてしまいます(これを廃用症候群と呼びます)。ご家族が患者さんを常に見まもりながら色々なところに連れて行くという方法もありますが、これを定期的に、かつ長期的におこなうのは大変です。

そこで現実的な選択として介護サービスの利用が勧められるのです。 そのほかにも介護サービスを利用する利点は色々あります。

  1. 患者さんがサービスを受けて楽しい時間を送ると、その楽しい余韻により生活全般で精神安定が得られることをよく経験します。また昼間に心地よく疲れることにより、夜よく眠るようになります。
  2. 患者さんの規則正しい生活の維持につながります。
  3. 介護の専門家と接する機会ができるのでご家族が介護について専門家に相談しやすくなります。
  4. 実際にサービスを受けている間、ご家族は休息したり、用事をすませたりできます。定期的にこのような時間をとることはご家族の生活の維持と精神安定にとても役立ちます。

しかし介護サービスを自ら受けたいという患者さんはごく少数で、ほとんどの方はサービスの利用を嫌がります。これはある意味当然のことです。誰でも慣れ親しんだ生活のパターンを変えることには抵抗があります。認知症の患者さんは健康な方よりも環境の変化にあわせることが苦手になり、また意欲低下のために何をするのも億劫になるからです。しかし私の経験では、嫌がる患者さんでも、ご家族や介護スタッフが工夫をすることで多くの場合、サービスを利用できるようになります。

対応法

介護サービスの利用により患者さんとご家族の生活が安定します

介護サービスの利用を嫌がる患者さんに利用を勧める際に、重要なことは、色々な工夫をして根気よくサービス利用につなげようとする周囲の皆さんの働きかけです。ご家族は、患者さんが嫌がるのなら行かせなくてもいい、と思うこともあるでしょう。しかし介護サービスを利用せずにご家族だけで長く対応できる患者さんは、周囲に患者さんのことをよく理解し、お世話できる人がたくさんいるというような恵まれた方に限られるように思います。患者さんが、介護サービスの利用を開始してから慣れるまでの間は、患者さんが戸惑ったり、混乱したりすることがあるかもしれません。しかしこの混乱を最小限にする工夫をして、なんとか介護サービスをとりいれた生活を送っていただいた方が、その後の患者さんとご家族の生活が安定することが多いと感じています。

患者さんは病気が進行すると、介護サービスを受け始める時の混乱も大きくなりがちです。また病気の進行により介護サービスで行われるリハビリの効果も少なくなると思います。介護サービスを利用した新しい生活パターンに早く慣れていただいたり、予防的な効果を期待するならば、早期からのサービスの利用が望まれます。

専門家を信頼しましょう

施設の専門家を信頼しましょう。ケアの専門家として、患者さんが過ごしやすく、楽しめるように色々な工夫をしていただけます。男性の患者さんはなかなかサービスに慣れにくいことがありますが、介護スタッフが、机運びなどのちょっとした力仕事を患者さんの担当にして、その作業により皆がとても助かっているということを繰り返し、患者さんに伝えることによって、「私がいないと皆が困るから通う」という患者さんは多いです。

事業所の選択は重要です

どこの介護サービス事業所を利用するのかは大切な選択です。患者さんの意向も重要ですが、基本的にはご家族が、患者さんが好みそうなサービス事業所を選択してあげてください。通える範囲の事業所の情報を収集して、最後は2、3箇所に絞ってください。そしてそこにご家族が見学に行き、職員さんの話を聞きましょう。患者さんと年齢や状態が同じような患者さんが多い、おこなっている活動が患者さんにあいそう、働いている職員さんが楽しそうなどは大切なポイントです。

施設に慣れていただくためには

介護サービスに一人で参加するのに不安がある患者さんの場合は、最初はご家族も施設に一緒に行って、しばらく施設で過ごすという方法が有効です。患者さんが慣れてきたら、徐々に一緒にいる時間を減らしましょう。

見学を嫌がる患者さんには

見学も嫌がる患者さんの場合は、「明日、見学に行くよ」と言うと身構えて、さらに拒否が強くなることがあります。散歩の途中などで、施設の前を通りかかった時に、「楽しそうだから、覗いてみましょう」などというように患者さんに声をかけてみる方法はどうでしょうか。偶然その施設を見つけて参加するかのように振る舞うのです。この場合は、あらかじめご家族が、その施設の職員さんにその時に見学に行くかもしれないということを連絡しておいて、準備と対応をお願いしておく必要がありますが。

通所介護が難しい場合は

通所介護が利用できない場合には、まずケアマネジャーさんやヘルパーさんなどに自宅に来ていただき、その人達と患者さんとの間に人間関係を築くことを優先する方法があります。患者さんがその人達を信頼した時点で、それとなくデイケアなどに誘ってみてください。「この人が言うのならば行ってみようか・・・」と参加してくれることもあります。

ショートステイの定期的な利用も考えましょう

通所介護を受けている患者さんが慣れてきたら、ショートステイを定期的に利用することも考えてみてください。ご家族の余裕がさらに増して、よい生活が送れる可能性があります。

どうしても嫌がられる場合は

どんな声かけをしても、どんな工夫をしても介護サービスの利用を促せない方もおられます。そのような場合は、時期を待ちましょう。色々なきっかけでサービスの利用が可能になる時が来るかもしれません。介護サービスの利用のきっかけがないかなと周囲の人が常にチャンスをうかがい続けましょう。
ご家族に、ふんぎりがつかない場合は、とりあえず一度、介護サービスを受けて、患者さんの様子を見ていただくのもいいかもしれません。介護スタッフが、上手に接してくれて、患者さんが楽しそうに過ごしている様子を見るとご家族の気持ちが変わるかもしれません。

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