アルツハイマー型認知症介護の基本と対応方法

更新日:2021/12/08

記事監修

大阪大学大学院 医学系研究科 精神医学教室 教授
池田 学 先生

アルツハイマー型認知症は、アミロイドベータやリン酸化タウと呼ばれる異常なたんぱく質が脳にたまり、神経細胞が死んでしまい、脳が萎縮して(縮んで)しまいます。記憶を担っている海馬という部分から萎縮が始まり、だんだんと脳全体に広がります。記憶力の低下から始まることが多く、進行につれて日付や場所がわからなくなる、家事や仕事の段取りが悪くなる、などの症状が加わります。

適切な薬物治療

アルツハイマー型認知症により失われた記憶や機能を回復させ、病気を完全に治すお薬はまだありません。
症状の進行を一時的に改善したり、遅らせたりする「抗認知症薬」による治療が中心となります。

コリンエステラーゼ阻害剤

神経伝達物質の一つであるアセチルコリンを分解する酵素の働きを抑え、脳内のアセチルコリンの減少を防いで神経細胞内の情報伝達を活発にします。

NMDA受容体拮抗剤

アルツハイマー型認知症になると、グルタミン酸が過剰に放出され、神経細胞が興奮しすぎて死滅します。このお薬はグルタミン酸を受け取る受容体にフタをして神経細胞の興奮を防ぎます。

非薬物療法(回想法、音楽療法、芸術療法、アニマルセラピー等)

薬物療法に加えて、非薬物療法を並行して行うと認知機能や身体機能の低下を防いだり、精神的な安定が期待できます。デイサービスやデイケアで取り組まれていることが多いので、ご本人の状態や性格、趣味などに合わせて、デイサービスやデイケアを利用してみるとよいでしょう。

回想法

最近のことは忘れていても過去の記憶は保たれています。昔の思い話をするなどして、記憶をよみがえらせることで脳の活性化につながります。施設ではグループ回想法がよく行われていますが、ご家庭でもできます。

音楽療法

歌を歌ったり、楽器を演奏することは、五感を通じて心身に良い影響を与えます。ご本人がよく聴いていた音楽をBGMで流すだけでもリラックス効果が期待できます。

芸術療法

絵画などアート作品を創作することで神経細胞を刺激して活性化する療法です。

アニマルセラピー

重度で意欲が低下している患者さんに効果的といわれています。人とはコミュニケーションをとりにくい患者さんも、動物に接して世話をすることで、自分の役割を自然に感じ取れるようになります。

環境づくり(食事・入浴・排泄など)

自宅の環境に危険がないかチェックするとともに、ご本⼈がなじんだ環境を活かすことも考えて住環境を整えましょう。

食事

自分の口から食べさせることで、脳の活性化にもつながります。いつもの場所でいつもの時間で食べることも大切です。
良質なタンパク質、緑黄色野菜を中心にバランスの良い食事を摂りましょう。食事の際に注意したいのは「むせ込み」。患者さんは噛む力や飲み込む力が弱くなっていますから、食べ物の大きさや硬さに気をつける、飲み込みやすいように「とろみ」をつける等の工夫も必要です。また、口腔ケアも病気の進行を和らげるといわれていますので忘れずに行いましょう。

入浴

浴室内での転倒には最大限の注意が必要です。滑り止めのマットを敷く、手すりを手前に設置するなど、浴室の環境を見直しましょう。

上手な声かけ

突然の行動に苛立ったり、戸惑ったりして、つい感情的になってしまうことも少なくないかもしれません。
そんなときには声を出す前にひと呼吸おくことを心がけましょう。ゆっくりと本人の正面から話しかけることが、安心に繋がります。
また、ちょっとした一言でご本⼈もご家族もリラックスできます。
「しかる」「批判する」「間違いを指摘する」はできるだけ避けましょう。

<声かけ例>

  • 着替えにとまどっているとき→「ゆっくりでいいですよ」
  • ご飯を食べない→「一緒に食べましょうか」
  • 同じことを何度も聞く→「(予定等を)ここにも書いておいたから」
  • 私の財布を盗ったと騒ぐ→「それは大変!」
  • 家の中でじっとしていられない→「ちょっとひと休みしませんか」等
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