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第1回 社会の動きを知りましょう。
高齢ドライバーによる交通事故防止対策が厳格化されました

更新日:2022/08/09

記事監修

高知大学保健管理センター医学部分室 准教授
上村 直人 先生

取材:2022年5月24日 高知大学

令和4年5月13日、改正道路交通法が施行

【改正道路交通法の施行について】

高齢運転者対策の充実・強化を図るため、75歳以上の免許更新手続きについて以下の3点が改正されました。

①認知機能検査の内容の簡素化
これまで認知機能検査の項目から「時計描画」がなくなりました。

②高齢者講習の一元化
これまで2時間講習・3時間講習に分かれていた高齢者講習が、2時間の講習に一元化されました。

③運動技能検査の導入
過去3年以内に一定の違反がある人が対象となります。運転技能検査に合格しない場合、免許の更新はできません。免許更新手続期限まで複数回受検可能です。

【改正道路交通法】75歳以上の運転免許更新手続の流れ

【改正道路交通法】75歳以上の運転免許更新手続の流れ

1 認知症に関する医師の診断書を提出することで認知機能検査に代えることができます。

2 運転技能検査の対象の方及び原付、二輪、小特、大特だけの免許をお持ちの方は、実車指導なし「1時間講習」となります。

3 一定の違反歴がある方が対象で、これに合格しないと更新できません。不合格であっても普通車を運転できる免許を返納して原付等にする場合は更新可能。

警視庁資料「令和4年5月13日改正道路交通法の施行について」より

https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/menkyo/oshirase/kaisei.files/kaisei.pdf

(最終閲覧日:2022年8月8日)

上村先生が考える、改正道路交通法のポイント

今回の改正法に対して、上村先生はどのような点に注目していますか?

私はポイントが4つあると考えています。

その1 運動技能検査の導入 ⇒運転能力そのものを評価

過去3年以内に信号無視や速度超過、前方不注意など一定の違反をした75歳以上の高齢ドライバーは、免許更新時に認知機能検査に加えて「運転技能検査(実車試験)」を受けることが義務付けられました。一時停止や右左折の正確性などが減点方式で評価され、100点満点中70点以上で合格、信号無視や逆走は一発でアウトです。私は以前から、運転の可否は認知症の有無だけでなく、運転能力そのものによって判断されるべきと考えていましたが、今回の改正でそのようなかたちになりました。

上村先生をはじめ認知症の専門医の先生方は、「認知症でなくても危険な運転をする高齢者もいるし、認知症であってもごく初期なら安全に運転できる人もいる」と主張されてきました。そうした考えに近くなったわけですね。

ようやくという印象はありますが、一歩前進したのは確かです。ただ、改正道路交通法においても認知症と診断された場合は運転免許の取り消し・停止となります。また、誤解している人も多いようですが、運転技能検査に合格すれば自動的に免許更新可能となるわけではありません。認知機能検査は必須です。そこで「認知症のおそれあり」となれば専門医の診断を受けることになります。

高齢者が運転しているシーン

その2 認知機能検査の簡素化

改正前の検査項目は「時間の見当識・手がかり再生・時計描画」の3項目でしたが、時計描画が廃止されて2項目に減りました。また、改正前は認知機能検査の結果によって「第1分類(認知症の疑いあり)」「第2分類(認知機能低下の疑いあり)」「第3分類(認知機能低下の疑いなし)」の3つに分けていましたが、改正後は認知症のおそれがあるかないかの2分類になりました。タブレットによる実施(設問表示とタッチパネルでの自筆回答)、基準点に達した時点で検査終了といった方式の導入も簡素化の流れの一環です。

高齢者がタブレットを使って質問にタッチペンで回答しているシーン

その3 「サポカー限定免許」の導入

「安全運転サポート車(サポカー)限定免許」も導入されました。この免許では、「衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)」と「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」を備えた車しか運転できません。それ以外の車を運転した場合は運転免許証不携帯扱いで2点の減点となります。

認知症の有無とサポカー限定免許とはどういう関係があるのでしょうか?

これも誤解があるようですが、認知症かどうかとは関係ありません。サポカー限定免許への切り替えは高齢者の自主的な申請によります。運転能力によって強制されるものではないし、認知症でもサポカー限定免許なら保有できるというものでもありません。希望者による任意の申請ということで、サポカー限定免許制度をもって万全の危険運転対策とはいえませんが、社会全体の安全運転への意識を高めるという意義は大きいと思います。

その4 診断書提出命令の対象拡大

今回の改正に伴い、病気などのために運転に不安がある高齢ドライバーの情報を警察(都道府県公安委員会)が得た場合、違反や事故はなくても診断書の提出を命じられるようになりました。危険運転について家族から相談を受けた保健や介護の専門職が、家族の同意のもとで警察に情報を提供し、診断書提出命令が出るケースもあるでしょう。命令に従わないと免許停止(保留)処分の対象となりますので、専門医療機関を受診する高齢ドライバーの増加が予想されます。

高知大学保健管理センター医学部分室 准教授 上村 直人 先生
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