認知症の公的介護保険制度とは?
更新日:2021/12/08
記事監修
新宿ヒロクリニック 院長
英 裕雄 先生
中外合同法律事務所
赤羽根 秀宜 先生
認知症と介護は切っても切れないものです。
公的介護保険制度は、介護を家族まかせにせず、社会全体で支えるしくみとして2000年にスタートしました。この公的介護保険では、「見た目ではわかりにくい」認知症の人の介護の手間を正しく評価し、支援につなげられるよう工夫されています。
「要介護認定」により、「要介護度」(介護サービスがどれくらい必要か)を決定します。
◾️要介護認定の流れ
1. 相談 | 市区町村の窓口やお近くの地域包括支援センターに相談 |
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2. 申請 | 市区町村の窓口で要介護認定を申請 |
3. 調査 | 調査員が自宅や施設を訪問し日常生活における心身の状況を聞き取り調査 |
4. 一次判定 | 聞き取り調査の結果と主治医意見書の一部をコンピュータで分析し、要介護度を算出 |
5. 二次判定 | 一次判定結果、 調査員による特記事項(介護の手間にかかわる個別の状況)や主治医意見書をもとに、「介護認定審査会」で最終的な要介護度を決定 |
◾️要介護度別(要支援含む)状態の目安
要支援 | 1 | 日常生活上の基本的動作については、ほぼ自分で行うことが可能であるが、日常生活動作1の介助や現在の状態の防止により要介護状態となることの予防に資するよう手段的日常生活動作2について何らかの支援を要する状態 | 心身機能の維持や改善を目的とした「介護予防サービス」を利用 |
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2 | |||
要介護 | 1 | 要支援状態から、手段的日常生活動作を行う能力がさらに低下し、 部分的な介護が必要となる状態 | 自立した生活の支援を目的とした「介護サービス」を利用 |
2 | 要介護1の状態に加え、日常生活動作についても部分的な介護が必要となる状態 | ||
3 | 要介護2の状態と比較して、日常生活動作及び手段的日常生活動作の両方の観点からも著しく低下し、ほぼ全面的な介護が必要となる状態 | ||
4 | 要介護3の状態に加え、さらに動作能力が低下し、介護なしには日常生活を営むことが困難となる状態 | ||
5 | 要介護4の状態よりさらに動作能力が低下しており、介護なしには日常生活を営むことがほぼ不可能な状態 |
厚生労働省 「平成14度老人保健健康増進等事業 事業報告書」より作成
- 日常生活動作:食事や着替え、整容(身だしなみ)、排泄、入浴など、身の回りの基本的な動作
- 手段的日常生活動作:買い物や洗濯、掃除、金銭や薬の管理、乗り物の使用など、より複雑な動作
要支援
心身機能の維持や改善を目的とした「介護予防サービス」を利用
1 | 日常生活上の基本的動作については、ほぼ自分で行うことが可能であるが、日常生活動作※1の介助や現在の状態の防止により要介護状態となることの予防に資するよう手段的日常生活動作※2について何らかの支援を要する状態 |
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2 |
1. 日常生活動作:食事や着替え、整容(身だしなみ)、排泄、入浴など、身の回りの基本的な動作
2. 手段的日常生活動作:買い物や洗濯、掃除、金銭や薬の管理、乗り物の使用など、より複雑な動作
要介護
自立した生活の支援を目的とした「介護サービス」を利用
1 | 要支援状態から、手段的日常生活動作を行う能力がさらに低下し、 部分的な介護が必要となる状態 |
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2 | 要介護1の状態に加え、日常生活動作についても部分的な介護が必要となる状態 |
3 | 要介護2の状態と比較して、日常生活動作及び手段的日常生活動作の両方の観点からも著しく低下し、ほぼ全面的な介護が必要となる状態 |
4 | 要介護3の状態に加え、さらに動作能力が低下し、介護なしには日常生活を営むことが困難となる状態 |
5 | 要介護4の状態よりさらに動作能力が低下しており、介護なしには日常生活を営むことがほぼ不可能な状態 |
(参考文献)厚生労働省 「平成14度老人保健健康増進等事業 事業報告書」
「要介護度」によって、利用できるサービスの量(限度額)が違います。
訪問介護やデイサービスなどの居宅サービスを、限度額の範囲内で利用した場合は、自己負担は1割(一定以上所得者は2割または3割)となります。限度額を超えた場合は、超えた分が全額自己負担となります。
◾️居宅サービスの1カ月あたりの利用限度額(区分支給限度額)
介護度 | 利用限度額 | |
---|---|---|
要支援 | 1 | 50,320円 |
2 | 105,310円 |
介護度 | 利用限度額 | |
---|---|---|
要介護 | 1 | 167,650円 |
2 | 197,050円 | |
3 | 270,480円 | |
4 | 309,380円 | |
5 | 362,170円 |
(参考文献) 厚生労働省 社会保障審議会 介護給付費分科会 第168回資料 l 「2019年度介護報酬改定について」
認知症になると、「要介護度」が高くなります。
1.まず、聞き取り調査で「心身の状況」を確認します
要介護認定の聞き取り調査では、5つの項目にて「心身の状況」を細かく確認します。
1 | 身体機能・起居動作 | 歩行の可否など |
---|---|---|
2 | 生活機能 | 食事や着替えの介助状況など |
3 | 認知機能 | 記憶障害の有無、季節や場所の理解の可否など |
4 | 精神・行動障害 | 感情が不安定だったり、自分勝手に行動することがあるかなど |
5 | 社会生活への適応 | 買い物の介助状況など |
2.介護に必要な「時間」に置き換えて「要介護度」を判定します。

◾️要介護認定等基準時間
入浴・排泄・食事等の「直接生活介助」、選択・掃除等の「関節生活介助」など、5つの分野ごとに推計された時間の合計が用いられます。
介護度 | 認定基準時間 | |
---|---|---|
要支援 | 1 | 25分以上32分未満 |
2 | 要支援状態のうち32分以上50分未満 | |
要介護 | 1 | 32分以上50分未満 |
2 | 50分以上70分未満 | |
3 | 70分以上90分未満 | |
4 | 90分以上110分未満 | |
5 | 110分以上 |
厚生労働省「要介護認定 介護認定審査会委員テキスト 2009改訂版」(令和3年4月)より作成
要介護認定等基準時間は、あくまでも介護の必要量を表す「ものさし」であり、直接、訪問介護・訪問看護など在宅で受けられる介護サービスの合計時間と連動するわけではありません。
3.認知症になると介護時間が増えると判断されます。
聞き取り調査で、認知症に伴う「認知機能の低下」や「精神・行動障害」が一定以上あると認められた場合には、コンピュータ判定で自動的に「要介護認定等基準時間」が長く算定されます。
また、運動能力が低下していない認知症高齢者に関しては、算定結果にさらに時間を加算するしくみになっています。このように、認知症の人は介護がより必要であると評価されるように配慮されています。
認知症の人にはより手厚いサービスが提供されます。ただし……