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病院に行く前に知っておきたいこと(検査・診断)

更新日:2024/01/15

記事監修

伊敷病院 院長
植村 健吾 先生

病院を受診する、ということはどなたにとっても不安なものですし、ハードルが高く感じられるものだと思います。受診の流れをアレコレ知っていただくことで、少しでも心に余裕を持って病院受診に臨んでいただければ、と思います。

一口に認知症といっても、どんな症状が生じるかは、原因となる病気や重症度によってさまざまです。生活上の注意点や治療の方法も当然ながら変わってきます。正しく治療やケアが行われないと症状が悪化してしまうこともあるため、まずは医師の診察を受け、適切な診断とアドバイスをいただくことが大切です。ここでは受診から診断まで病院にまつわるアレコレを解説します。

どこの病院を受診すればいいの?

まずはかかりつけ医に相談してみましょう。そこで認知症もしくは認知症の疑いがあると診断されれば、より専門的な診察や検査が可能な病院を紹介されることになります。このような病院の多くは、認知症関連の学会で専門的な研修を受けた認知症専門医が診療にあたっています。

認知症の診療を行う診療科は1つではありません。「もの忘れ外来」「認知症外来」「脳神経内科」「精神科」「老年病科」「脳神経外科」など多数あります。初めて受診する場合は、どこに行けばよいのか迷いやすく、その点からしても最初はかかりつけ医に相談することをお勧めします。

なお近年は、認知症の人が住み慣れた地域で専門医療を受け、安心して生活ができるよう、国が主導するかたちで全国各地に「認知症疾患医療センター」も設置されています。規模や診療機能によって基幹型(主に総合病院)、地域型(単科の精神科病院など)、連携型(診療所など)の3つに分類されますが、タイプに関わらず専門的な診療が行われています。専門知識を持つスタッフが治療や介護についての相談にも応じています。

病院ではどんなことをするの?何がわかるの?

問診(診察)、検査、診断。病院で行うことは大きくこの3つに分けられます。

① 問診(診察)

問診では主に次のようなことを聞かれます。

  • 受診のきっかけ、いま困っていることや感じていること
    認知症を疑うきっかけとなった症状や心身の変化、不調、生活や仕事における不自由、失敗、不安など。
  • きっかけとなった症状や変化が気になり始めた時期
  • 今までにかかった大きな病気や怪我について
    いつ頃どのような病気や怪我をしたのか、手術の内容、経過など。
  • 現在、治療している病気や怪我について
    病気や怪我の内容、手術をした時期、治療期間、受診している医療機関など。
  • 現在、使用している薬について
    医療機関で処方された薬剤だけでなく市販薬も含む。飲み薬だけでなく貼り薬、吸入薬など。
  • 現在の生活状況について
    お仕事や運転をしておられるかどうか、同居しているご家族がいらっしゃるのか、おひとり暮らしなのか、お手伝いをしてくれる人が近くにお住まいかどうか、介護保険の認定を受けておられるかどうかなども。
問診(診察)

診察室で色々なことを聞かれても慌てずに答えられるよう、事前に伝えたいことをメモして持っていくと良いでしょう。ふだんの本人の様子を知る家族が同行することは診察の大きな助けになります。付き添いがいたほうが本人も安心できますし、伝えきれない部分を代わりに説明することもできるからです。落ち着いて診察に臨めるよう、病院には余裕をもって到着することも大切です。

② 検査

認知症の診断にあたってはさまざまな検査が行われます。代表的なのが神経心理検査と画像検査です。

●神経心理検査

認知機能の状態を細かく確認するための検査です。ほとんどの検査では、机をはさんで向き合い、手順に従って質問に答えたり、何かを書いたり、道具を操作したりします。改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ミニメンタルステート検査(MMSE)などがあります。

●画像検査

形態画像検査:脳の萎縮や脳梗塞・脳出血・脳腫瘍などの脳内の病変の有無など、脳の形を調べる検査です。CTやMRIなどがあります。CTはエックス線、MRIは磁気による検査ですが、MRIのほうがさまざまな断面の画像を撮影することが可能です。また、MRIは撮影方法が複数あり、異なる方法で撮った画像を比較するなどすれば、より正確な診断も可能になります。

機能画像検査:脳の血液の流れを測定して脳の働きを調べる検査です。代表的な検査法がSPECTです。

この他にも血液検査や心電図、レントゲンなども行われることがあります。ただし、どの検査を行うかは病院によってさまざまです。最近は、認知症に関わる脳内の変化をより早期に捉えられるような検査など、認知症の早期発見や脳の機能チェックを目的としたさまざまな検査を行う人間ドック(脳ドックとも呼ばれています)もあります。

●より詳細な検査

腰椎穿刺(脳脊髄液検査):脳脊髄液を採取し、その中に含まれるアルツハイマー病に特徴的なタンパク質の量などを調べる検査です。

PET検査:アルツハイマー病に特徴的な病理変化であるアミロイドタンパク質の蓄積や脳内の糖代謝などを描出する画像検査です。より早い時期から脳内の変化を検出することが可能です。

慣れない検査をいくつも受けるのは、ただでさえ緊張します。集中もしなければならず、とても疲れるでしょう。検査時の疲れが、受診後に頭痛や体調不良、イライラなど心身の変調というかたちで表れてくることもあります。受診前にはなかった体調の変化や疲れを感じた場合は、無理をせずに心身を休ませる時間をいつも以上に多めに取ってください。

③ 診断

問診の内容や検査の結果を医学的に整理して、医師は現時点で考えられる診断を行います。これをもとに、治療やケアについて話し合い、どうしていくか方向性を決めることになります。医師からは利用可能なサービスに関する助言や、行政による支援の相談窓口を紹介されることもあります。

繰り返しになりますが、仮に認知症との診断を受けたとしても、まだまだ多くのことを自分の力でできます。診断を受けたことを一つの「きっかけ」として、自分で考え、意思を伝えられるうちに、家族や身近な人たちとしっかりと話し合い、自分が望む生活や医療、介護のあり方について共有しておくことが大切です。意思を伝えるのが難しくなっても、医療や介護に携わってくれる人たちが自分のことを理解できるよう、生活歴や人生の思い出、好きなことなど自分についてまとめておくのも良いでしょう。

診断の内容に納得できないこともあるかもしれません。自分はおかしいと感じているのに「大丈夫ですね」と言われたり、十分な検査が行われないまま認知症と診断されたり――。納得できない理由は人それぞれですが、納得できるよう、わかりやすく説明し、親身に相談に乗ってくれる医師に出会うことは、とても重要なことですから、そうした場合には、また別の医療機関を受診することも良いでしょう。あるいは、時期をずらしてもう一度、受診してみるのも良いかもしれません。

認知症の発症や進行は予防できるの?

認知症の発症や進行は予防できるの?

最近の研究では、加齢以外にも不活発なライフスタイルや喫煙、不健康な食事、過剰な飲酒などが認知機能の低下や認知症に関わっていることがわかっています。また、高血圧や糖尿病、肥満、うつ病なども認知症の発症リスクに関連していることが示されています。

WHO(世界保健機関)は2019年に『認知機能低下および認知症のリスク低減』のためのガイドラインを公表しました。ガイドラインの序文では、「認知症には治療法がないものの、修正可能な危険因子に対する予防管理により、発症や進行を遅らせることは可能である」としています。

実際に何を行えば良いのでしょうか。結論から言うと、生活習慣病の予防と大きく変わりません。積極的に人と交わり、バランスの良い食事、適度な運動など健康に良いとされる習慣を無理のない範囲で取り入れ、高血圧や糖尿病をきちんと管理し、脳卒中の予防に努めれば、血管性認知症をある程度予防できるだけでなく、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症の進行を遅らせることも期待できます。

(参考文献)
WHOガイドライン 認知機能低下および認知症のリスク低減

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