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「夫の認知症を悪化させたくない」認知症の相談事例

更新日:2021/12/08

記事監修

角田とよ子さんの著書
『介護家族を支える電話相談ハンドブック ―家族のこころの声を聴く60の相談事例―(中央法規出版)』から一部抜粋

相談者
妻Sさん/70歳台
夫と二人暮らし。一人娘が近くに住む
介護対象者
夫/70歳台
軽度の認知症で要介護1

相談内容

夫がアルツハイマー病と診断されました。
まだ軽度ということなので、何とかこのまま進行させないようにしたいと思っています。私は娘を産んでから体調を崩すことが多くなり、夫にはずいぶん支えてもらいました。私が寝込んでいても文句一つ言わず、娘と私の面倒をみてくれました。本当にやさしくてハンサムで、仕事もできる自慢の夫でした。その夫が病気になったのですから、今度は私が支えなければなりません。
「私がいるから大丈夫よ」と声をかけて、三度の食事は栄養を考えてつくり、"認知症に効く"サプリメントを飲ませ、散歩や買い物に一緒に行っています。
風邪をひかないように部屋の温度と湿度を一定にし、着るものも身体にやさしい素材を選んでいます。そして、一日中夫を見守り、夫が混乱しないようにしています。それが妻の務めだと思い、ー生懸命介護してきました。

ところが、夫が私の言うことを聞かなくなってしまいました。
この前、朝食のあといつものように「歯みがきをしてください」と言ったのですが、夫はいつまでたっても食卓から動こうとしません。
「歯みがきは?」と言うと、「わかっている」と答え、それでも席を立とうとしませんでした。しかたなく私が歯ブラシを持ってきて夫に渡したのですが、夫は受け取りません。
能面のような表情でにらまれ、すごくショックでした。
大切な夫を守りたい一心で介護しているのに、夫から拒否されてしまいました。このままでは夫の認知症は急激に進んでしまうのではと不安です。

  • これまで支えてくれた夫が認知症になり、今度は自分が支えたい
  • 一生懸命介護しているのに拒否されるようになった
  • このままでは認知症が進んでしまうのではと不安

相談員の対応

「今まで私を支えてくれた主人が認知症になったのですから、今度は私が介護をする番です」とSさんは夫の認知症を進行させまいと固く決心している口ぶりでした。あいづちを打ちながらSさんの介護のようすを聞きました。
まさに「至れり尽くせり」という言葉がぴったりだと感じ、「大切なご主人を一生懸命介護されているのですね」とねぎらいました。

夫が言うことを聞かなくなったと嘆くSさんに「ご主人はどんな方でしたか」と聞くと、『私が病弱だったため、何でもしてくれました。器用な人で私よりも家事が上手でした』とのこと。 「認知症になってからはどうですか」と聞くと、できなくなったときにショックを受けるとかわいそうなので、頼んでいないということでした。
「今はあなたがご主人を守る立場なのですね」と確認しました。
少し視点を変えて、Sさんが病気で夫に家事や子育てをしてもらっていたときの気持ちを聞いてみると、「それはもう、主人に申し訳なくて。娘の面倒もみたいのに、情けなかったです」と振り返っていました。
「ご主人は、今どうでしょうか」と問うと、Sさんは考えている様子でした。そこで、「認知症のご本人が、『認知症になってもできることはたくさんあるということを知ってほしい。自分で考えてやりたいので、その前に指図されるのは嫌だ。間違えそうになったときにそっと声をかけてほしい』と言っていました。人間としてのプライドだそうです」と伝えました。
「私は娘に『やりすぎだよ』と言われたことがあります。主人はそれを言えなかったのでしょう」と言うSさんに、「本気で向き合ってくれる奥さんがいて、ご主人は幸せです。これからはご主人の隣りに座って、必要なときに手助けできるように見守る介護を心がけてみるといいかもしれませんね」と助言しました。

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