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「夫の認知症を周囲に伝えたほうがよいか」認知症の相談事例

更新日:2021/12/08

記事監修

角田とよ子さんの著書
『介護家族を支える電話相談ハンドブック ―家族のこころの声を聴く60の相談事例―(中央法規出版)』から一部抜粋

相談者
妻Uさん/50歳台
夫と二人暮らし。自営業
介護対象者
夫/50歳台
若年性認知症

相談内容

私は建築業を営む家に嫁ぎました。夫のがんばりで会社が大きくなり、結婚した当時に比べると従業員が3倍になりました。そんな夫が、2年前からようすがおかしくなり、受診したところ若年性認知症と診断されました。
息子や社員が上手にフォローしてくれるので、夫は今でも会社に行って一日過ごしています。
夫は商工会や地区の役員などたくさんの役割をもち、さまざまな会識にも出席しています。これまでは何とかこなしていましたが、先週あるイベントの役員として一日駆り出されたあと、一緒に参加した人から「失敗ばかりして、みんなに迷惑をかけていた。少しおかしいのではないか」と電話をもらいました。私はとっさに「仕事が大変で疲れていたからだと思います」と言ってしまいました。その人は「それならいいけれど・・・」とまだ何か言いたそうだったので、「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」と私から電話を切ってしまいました。その人と夫は長い付き合いなので、夫の変化に気づき、夫を心配してくれたのだと思います。
以前、夫の認知症について夫の学生時代の友人に話したことがあるのですが、それまで時々誘われていたゴルフや釣りにいっさい誘われなくなりました。そのことがあって、夫のプライドを守り行動範囲をせばめないためには、病名は伝えないほうがよいと思ったのです。しかし、夫の症状が進んでくればそうはいかなくなるでしょう。周囲の人に伝えるべきか悩んでいます。

  • 社長をしていた夫が若年性認知症になった
  • 友人に病名を告知したら疎縁になってしまった
  • 認知症の症状が進み、地域の人に告知するべきか悩む

相談員の対応

Uさんは、「夫はまだ若いのにこんなことになってしまって・・・」と無念そうに言いました。今でも出勤して会社で一日過ごしていると聞き、「家族や社員の理解があって恵まれていますね。自分の居場所があり、これまでどおりの暮らしができることが、認知症の人にとってはいちばんうれしいことです」と家族の対応に拍手を送りました。
夫の病名を夫の友人に伝えたらそれ以来、全く誘いがなくなったという出来事は、Uさんにとってもショックでした。「寂しいですね。友人とのお付き合いは続けたかったでしょうに」と共感し、「認知症になったらなるべく早く周囲に知らせ、理解してもらい、適切に対応してもらうというのは理想論なのでしょうか。その友人は、認知症について理解がなかったようですね」と立腹すると、「私自身も夫がなるまでは認知症は年寄りの病気で、なったら最後と思っていました。でも今は違います」と、夫を支えてきた強さを感じました。Uさんの夫が地域でさまざまな役割をはたしていると聞いて、「地域に根ざした暮らしのよさですね。ご主人が自分から行くのであれば、居心地がよいのでしょう」と言うと、「長いお付き合いで、支えてもらっています。イベントのあとに夫がおかしいと言ってくれた人にも、本当にお世話になっています」と振り返っていました。
認知症キャンペーンや報道を通じて認知症を知る人が増えてきましたが、若年性認知症への理解はまだまだで、なまけている、ふざけている、わざとしていると受け取られることが多いことをUさんに話すと、「夫の活動範囲をせばめたくないので黙っていたのですが、誤解されたら、かえって夫がかわいそうですね。信頼できる人に話してみようかな」とのこと。「認知症でも少し支えてもらえばできることはたくさんあるということを、みんなに知ってもらいましょう。一歩先に認知症になった人の役割です」と応援しました。

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