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認知症サポーターとは?役割や養成講座の内容を紹介​

更新日:2022/12/20

記事監修

東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授​​
繁田 雅弘 先生

認知症になっても自分らしい生活を送るためには、地域や職場のサポートは欠かせません。​
認知症の人も、認知症でない人も住みよくなる社会を目指すため、厚生労働省の呼びかけにより育成されることになった「認知症サポーター」。​
この記事では、認知症の方やその家族を支える認知症サポーターの役割、認知症サポーター養成講座の内容、各種研修制度について解説します。​

認知症サポーターとは?​

認知症のことを正しく理解し、地域に暮らす認知症の人やそのご家族を見守り支える応援者です。​​

認知症サポーターとは認知症に対する正しい知識と寛容な理解のある、認知症の方やその家族らが暮らしやすい地域社会の実現を支援する方です。サポートといっても直接的な介護などをするわけではなく、認知症の人や家族の「よき理解者」としての活動がメインになります。
認知症サポーターは地域の特性やニーズに応じ、以下の活動を実践しています1

  • 認知症の方の見守り​
  • 傾聴のボランティア​
  • 認知症の方や家族が集まって交流を深める「認知症カフェ(オレンジカフェ)」の開催・参加​

なかには、小学生ながら認知症サポーターとして活躍している方もいます。​

認知症サポーターの役割​

認知症の方や家族の応援者である認知症サポーター。ここでは役割や意義について紹介します。

認知症に対して正しく理解し啓発する​

誰もが認知症に対して偏見を持ってしまうものですが、とくに偏見の強い人は、認知症になると物事の判断がなにもできなくなってしまうと考える方もいます。しかし実際には、すべての物事を理解できなくなっているわけではなく、また感情やプライド、羞恥心があるのです。特に初期の認知症の方の理解力は、認知症でない方と同じようにできます。​
それにもかかわらず、必要以上に障害者扱いしたり、子ども扱いするとストレスがかかり、認知症の方の症状悪化を招く恐れがあります。正しい知識と寛容な理解を有したうえで、手助けの重要性を啓発することは認知症サポーターの大切な役割です。​

地域で協力体制を作り、認知症の方や家族を温かい目で見守る​

一人歩きによって行方不明になったり、事故に遭ったりするケースが後を絶ちません。警察庁生活安全局生活安全企画課発出の「令和2年における行方不明者の状況」によれば2020年に警察に届け出があった認知症、または認知症疑いによる行方不明者数は17,565人でした2
一人歩きによるトラブルを防ぐうえで重要なのが、相互扶助や助け合いのネットワークを構築し、地域全体で見守ることです。認知症の有無に関係なく、道に迷ったり、困っている様子がある方に対して声をかける、付き添うなどの親身になった振る舞いが認知症サポーターには求められます。​

すべての人が住みやすいまちづくりを担う地域のリーダーとして活躍する​

多くの人は、認知症になると買い物や移動、趣味活動など地域の様々な場面で外出や交流の機会を減らしている傾向にあります3
例えば、買い物に来た高齢者の様子から認知症が疑われる場合、まずは温かく見守り、必要に応じたサポートをすることは、認知症サポーターが率先して担うべき役割です。

「認知症カフェ(オレンジカフェ)」の開催や参加を通じ、認知症の方や家族が抱える悩みの相談を受ける​

認知症の介護は、心身ともに負担がかかる傾向にあります。家族は以前と変わっていく認知症の方の様子に戸惑い、不安を感じることも少なくありません。そのため、認知症の方だけでなく家族が頼れて、拠り所となる場所も必要です。
「認知症カフェ(オレンジカフェ)」の開催または参加を通じて、認知症の方や家族との交流のなかで当事者が抱える悩みを親身になって聞くことも認知症サポーターの重要な役割の一つといえます。​

認知症サポーターになるには

自治体などで開催される認知症サポーター養成講座を受講すれば、どなたでも認知症サポーターになることができます。最近では、コンビニエンスストアやスーパー、銀行などの職場や小・中学校、大学などでも養成講座が行われており、幅広い年代が認知症サポーターになっています。受講料は原則無料です3

認知症サポーターカード・オレンジリングとは

認知症サポーター養成講座の受講を終えた方に対して“受講の証”として配布されるカードで、「認知症の人を応援します」という意思を示すものです。令和2年度末まではオレンジリングを配布していましたが、現在では原則として認知症サポーターカードに切り替わっています4

(出典)文京区ホームページ/認知症サポーター養成講座 https://www.city.bunkyo.lg.jp/hoken/koresha/ninchisho/newninsapo/ninsapo.html
(最終閲覧日:2022年12月6日)

認知症サポーター養成講座の内容​

約90分間の講座で、以下の内容を座学で学びます。

認知症とはどのようなものか

認知症とは何らかの原因により脳の機能に支障をきたし、記憶力の減退などによって日常生活動作などにつまづきが生じるようになった状態を指します。特定の疾患名ではなく、単なる老化現象とも異なるものです。​

認知症の症状とは​

認知症の症状は大きく記憶障害や判断力の低下などの「中核症状」と不安障害や一人歩きなどの「周辺症状(行動心理症状、BPSD)」に分かれます。ただ認知症の種類によって、みられる症状が異なることがあります。

認知症の診断・治療について​

認知症の多くは完治が難しいとされていますが、症状をおさえることが期待される薬はあります。現在中核症状への有効性が確認されている国内承認薬は4種類です。周辺症状については症状の特徴によって抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬、漢方薬、睡眠薬、便秘薬などが使用されます。

認知機能低下を予防する​

認知機能を維持するには適度な運動、健康的な食事をはじめ糖尿病や高血圧、脂質異常症の管理といった健康管理も有効と考えられています。また、認知機能のトレーニングをする、積極的に社会と関わりを持つなどして、自分らしく暮らすことで脳の機能を維持することも重要です。​

認知症の方と接する際の心構え​

認知症の方も自尊心や感情があります。接する際は、尊厳を守るようにしましょう。否定したり叱ったりせず、あくまでも本人のペースに合わせることが重要です。ひとりで抱え込まずに、早い段階で福祉介護サービスを利用することも大切です。介護者の心に余裕がうまれることで認知症の方も安心でき、それが質の高い介護につながります。​

認知症サポーターの背景

急速に進む人口の高齢化に伴い、認知症の方の急増が予想されていました。一方で、医療・介護の人材不足も指摘されるようになり、このままでは今までと同じように介護従事者やご家族だけで認知症の方を支えることは現実的に困難になってしまいます。​
そこで、認知症の人を地域で支える新たな仕組みをつくるため、2005年に厚生労働省の呼びかけにより、「認知症を知り地域をつくる10カ年」構想がスタート5。その取り組みの一つとして、認知症サポーターが育成されることになったのです。

認知症ケアに関する資格・研修制度

認知症についてもっと詳しくなりたい、認知症の方を本格的にサポートしたいという方に認知症ケアに関する資格・研修制度を紹介します。

認知症ケア専門士​

一般社団法人日本認知症ケア学会が認定する更新制の資格です。“認知症ケアに対する優れた学識と高度の技能、および倫理観を備えた専門技術士を養成し, わが国における認知症ケア技術の向上ならびに保健・福祉に貢献することを目的として設立”されました6
認知症ケア専門士は、専門的な知識を豊富に身につけることができる、実践的な資格です。知名度もあり、取得すると認知症の家族の方からも信頼を得やすくなることが期待できます。しかし、受験には実務経験も必要で、二次試験では筆記と面接をクリアしなければなりません。比較的難易度は高いといえるでしょう。​

試験の流れ

参考文献7より作成

  • 受験資格:試験実施より過去10年の間に認知症ケアに関する施設、団体、機関などで認知症の方に携わる実務経験が3年以上
  • 費用:審査料(筆記試験3,000 円/1分野、面接試験8,000 円)、認定料1万5,000 円、更新料1万円(2022年7月時点)

なお、認知症ケア専門士が所属する施設を検索できるサイトもあります。​

認知症介護研修​​

認知症に関する知識を身につけるための研修です。令和3年度の介護報酬改定に伴い、法定研修になりました。料金は無料~5万円程度で、基礎、実践、リーダーとレベルがあります。
運営主体は各都道府県の指定・委託を受けた機関なので、受講条件やカリキュラムは地域によって若干異なることもあります8

認知症介護基礎研修​

認知症の方への理解と対応の基本と認知症ケアの実践上の留意点について学びます。2021年4月から無資格の介護職は受講が義務化しました。2023年3月までは経過措置が取られます。

  • 受講資格:認知症ケアに携わる介護従事者​
  • 費用:受講料3,000 円(2022年7月時点)

認知症介護実践者研修​

認知症の原因となる疾患、病状に応じた対応など介護現場で必要となる実践的なスキルを演習・実習を通じて学ぶ研修です。基礎研修では得られない、実務に直結するスキルを習得できるこの研修は本格的に認知症について学びたい方向けといえるでしょう。受講料は無料です。​

  • 受講資格:介護現場における実務経験が2年以上あること(2022年7月時点)

認知症介護実践リーダー研修​

ケアチームにおける指導能力、チームマネジメント能力を習得する研修です。介護施設で指導者として仕事をしたい方を対象としています。受講料は無料です。​

  • 受講資格:介護業務に5年以上携わり実務経験を積んでいる者で、認知症実践者研修を修了してから1年以上経っている者(2022年7月時点)

認知症介助士​

認知症を正しく理解し、認知症の方に寄り添うコミュニケーションや接遇(接客)・応対、環境作りの方法の習得を目指す資格です。​
認知症ケア専門士や認知症介護研修が認知症を個人の問題としてとらえるのに対し、認知症介助士は社会的・環境的問題としてとらえます。​​
言いかえれば、認知症介助士は、認知症患者やその家族を”地域全体で支えていく“考え方に基づく資格です。試験のみ受ける方法と、セミナーと共に受ける方法があります9

  • 受験資格:特になし​
  • 費用:試験料3,300円、セミナー受講料:(セミナーを受ける場合のみ)1万6,500円、テキスト(任意)3,300円、検定試験対策問題集(任意)2,200円(2022年7月時点)

まとめ​

認知症サポーターとは認知症に対する正しい知識と寛容な理解を併せ持ち、認知症の方とその家族などが暮らしやすい地域社会の実現をサポートする方のことです。​​

認知症サポ-ター養成講座に受講資格はありません。養成講座を修了すればどなたでも認知症サポーターになることができます。皆さんも地域で活躍する認知症サポーターを目指してはいかがでしょうか。

(参考文献)
1,認知症サポーターの活動
https://www.caravanmate.com/activities/(最終閲覧日:2022年7月12日)
2,令和2年における行方不明者の状況 警察庁生活安全局生活安全企画課
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/safetylife/R02yukuefumeisha.pdf(最終閲覧日:2022年7月12日)
3,認知症対策推進大綱 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000522832.pdf(最終閲覧日:2022年7月12日)
4,サポーターカード大集合
https://www.caravanmate.com/card.html(最終閲覧日:2022年7月15日)
5,「認知症を知り地域をつくる10ヵ年」の構想|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/c01.html(最終閲覧日:2022年7月12日)
6,認知症ケア専門士公式サイト
https://ninchisyoucare.com/senmonsi/Dsenmonsi.htm(最終閲覧日:2022年7月12日)
7,一般社団法人日本認知症ケア学会 認知症ケア専門士認定試験 第18回(2022年度)
https://www.dcq-ex.net/shiken.htm(最終閲覧日:2022年7月12日)
8,東京都認知症介護研修の概要 東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kourei/koza/ninchi/kenshu_info.html(最終閲覧日:2022年7月12日)
9,認知症介助士検定試験|認知症介助士 | 公益財団法人日本ケアフィット共育機構
https://www.carefit.org/dementia/examination.php(最終閲覧日:2022年7月12日)

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