認知症に対する薬物療法以外のアプローチ

手術療法

認知症は、「特発性正常圧水頭症」という病態によって生じる場合があります。特発性正常圧水頭症とは、何らかの理由で脳脊髄液の循環する「脳室」というスペースが拡大して、脳実質が圧排されることによって、①認知症(認知機能障害)②尿失禁③歩行障害の3つの特徴的な臨床症状が出現します(これを「三徴」といいます)。治療としては、薬物療法ではなく、「シャント術」という拡大した脳室の状態を解除する手術療法が有効です。手術の適応可否については脳神経外科医の診察・事前検査を受けることが必須となります。

認知リハビリテーション

運動療法

適切な運動は生活習慣病や脳卒中の予防にとても有効ですが、認知症への治療としてもその有効性が多く報告されています。運動の種類は有酸素運動、筋力強化訓練、平衡感覚訓練などがあります。これらの複数種類を組み合わせたプログラムを週2回~毎日、20~75分程度行う内容が報告されています。運動機能を高めることで寝たきりや転倒のリスク低減も期待できます。

認知機能訓練(認知トレーニング)

特定の認知領域(注意や記憶機能など)に関して特化・標準化された一連の課題を、紙面やコンピュータを使ってトレーニングするものです。個人およびグループでとりくむスタイルが提案されています。

認知刺激療法

トランプや音読、簡単な計算、数字を使って、「楽しめる活動」を通じて、特定の認知機能領域の改善を目指すというよりも複数の認知機能を刺激して、全体的な脳の働き、そして社会機能の改善を目指す治療のことです。もともとは現実見当識訓練(リアリティーオリエンテーション)とよばれる現実に対する認識を高める訓練(例:本人や家族の名前、いま居る場所、日付や季節などについて、紙やボードに書いて掲示する)から発展した治療法です。

認知リハビリテーション

認知機能訓練、認知刺激療法と比べて、さらに個別性を高めたアプローチです。個別の目標設定をセラピストの監修のもとに行ってもらい、その設定目標に向かって、戦略的にリハビリテーションを行っていきます。日常生活機能の向上が主な目標となります。

音楽療法

プログラムはさまざまです(例:クラシック音楽の鑑賞、馴染みの深い歌謡曲や童謡を唄う、打楽器を演奏するなど)。週1~5回、10~60分のプログラムが報告されています。個人およびグループで行うスタイルが提案されています。

回想法

非薬物的なアプローチのなかで、最も幅広く実施されているものです。過去の個人史に焦点をあてた「回想」という取り組みを通じて、本人の心的活動の活性化を図ります。回想には①アイデンティティ確認回想②問題解決的回想③会話回想④情愛保持回想⑤外傷体験再現回想⑥教育・情報付与的回想⑦退屈軽減回想⑧死の準備回想(死の不安軽減)といった多くの機能が含まれることが指摘されています。回想法を担当するスタッフは、事前情報として、参加者の診断のほか、出身地、趣味・特技、言語的コミュニケーションおよび非言語的コミュニケーションの様子、注意・関心の程度や感情状態について観察し評価をしておくことが推奨されます。担当スタッフは、各回のテーマを本人に伝え、それにまつわる思い出を本人から語っていただき、スタッフは共感と受容とともに聴き、この取り組みを継続していきます。このようなかたちでライフヒストリ―を傾聴することが本人の心の支えにもなりますし、ひいては活性化につながることを目的としています。回想法についても個人およびグループで行うスタイルが提案されています。

バリデーション療法

認知症の人が語る内容は、話の前後関係が正しくなかったり、ときにはその内容が実際の事実と異なる空想めいたものであったりすることがあります。バリデーション療法ではそうした精神世界を真偽に基づいて否定するのではなく、そこに生じた感情をまず共有し、そしてそれが語られた背景や理由を推察しながら関わっていく手法です。本人がときとして抱く寄る辺ない不安を軽減する効果が期待されます。認知症の進行ステージに合わせて、言語的および非言語的コミュニケーション技法が示されています。

パーソンセンタードケア

認知機能のみに注目するのではなく、認知症の人を1人の人間としてまず尊重し、その行動や状態について、性格傾向、生活歴、健康状態、本人をとりまく心理・社会的背景を多様な面からとらえつつ理解を試みるケア方法です。疾患にまつわる一般的事項に注目するのみではなく、ほかならぬ人間としての主体性、各ケースの個別性に注目をしたケアになります。

家族・介護者など当事者に関わる人々へのはたらきかけ

ここには多くのものが含まれます。具体的には心理教育、スキル訓練、介護者サポート、ケースマネジメント、レスパイトケア、介護者のセルフケア、認知行動療法などが挙げられています。当事者である認知症の人だけではなく、認知症に関わる人々が専門的な知識を有することは、関わる人々が燃え尽きやうつを生じるリスクを軽減することにとても役立ちます。そして自身および認知症の人双方の精神生活に関して理解を深めることは、より良い認知症ケアを実現していくうえでとても重要です。

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